改訂新版 世界大百科事典 「オヒキコウモリ」の意味・わかりやすい解説
オヒキコウモリ
free-tailed bat
長い尾を引きずって地上を敏しょうに歩く翼手目オヒキコウモリ科オヒキコウモリ属Tadaridaに属する哺乳類の総称。世界の熱帯から温帯に広く分布し,約50種が知られる。その中のアジアオヒキコウモリ(オヒキコウモリ)T.insignisは,国外ではシベリア,朝鮮半島,中国に,国内では北海道,本州,四国,九州に分布するが,日本ではこれまで10頭しか採集されていない稀種(きしゆ)で,日本に定住するものではなく,迷って渡来したものではないかともいわれる。体長9cm前後,前腕長6cm前後,耳介は大きくて厚みがあり,先が丸く,額で左右の内縁が連結する。尾は長さ5cm前後で,その約半分が可動性の腿間膜(たいかんまく)の後縁から突き出す。飛膜,腿間膜は多くのコウモリより厚く,不透明で,翼は狭く長い。体背面は黒褐色または茶褐色。オヒキコウモリ属の種の多くは単独または小群でいるが,ときに何千頭という大群をつくる。人家内,洞窟,廃坑,樹洞,岩の割れ目,石の下などに生息し,地上を巧みに歩くことが知られる。日没前にねぐらを離れ,地上5~30mを飛びながら,飛翔(ひしよう)中の昆虫を捕食し,開けた場所では低空を飛ぶ傾向が見られる。翼がアマツバメのように狭くて長いことで知られ,また,コウモリ類中もっとも高速で飛翔するものの一つ。冬の終りから早春にかけて交尾し,6~7月に1子を出産する。
執筆者:吉行 瑞子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報