精選版 日本国語大辞典 「おわす」の意味・読み・例文・類語
おわ・すおはす
- 〘 自動詞 サ行変 〙 ( 四段・下二段の両活用があったとする説もある。→語誌 )
- [ 一 ]
- ① 「ある」「いる」の意の尊敬語。存在、状態の主を敬っていう。いらっしゃる。おいでになる。
- [初出の実例]「我朝ごと夕ごとに見る竹の中におはするにて知りぬ」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
- ② 特に、この世にいる、生きているの意の尊敬語。御生存になる。生きていらっしゃる。
- [初出の実例]「ありし京極のことをふとおぼし出でて『〈略〉その御親はおはするか、おはせぬか〈略〉』とのたまへば」(出典:宇津保物語(970‐999頃)俊蔭)
- ③ 「ある」の意の尊敬語。ものの所有者を敬って、そのものがあるの意を表わす。おありになる。
- [初出の実例]「この住吉の明神は例の神ぞかし。ほしきものぞおはすらん」(出典:土左日記(935頃)承平五年二月五日)
- ④ 「行く」の意の尊敬語。いらっしゃる。おいでになる。
- ⑤ 「来る」の意の尊敬語。いらっしゃる。おいでになる。
- [初出の実例]「門をたたきて『くらもちの御子(みこ)おはしたり』と告ぐ」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
- ① 「ある」「いる」の意の尊敬語。存在、状態の主を敬っていう。いらっしゃる。おいでになる。
- [ 二 ] 補助動詞として用いる。
- ① 動詞の連用形(または、それに助詞「て」の付いたもの)について、動作の継続の意を添える「ある」「いる」、動作の方向や状態の推移を示す「行く」「来る」の意を敬っていう。…ていらっしゃる。…ておいでになる。
- [初出の実例]「かくそぞろなる精進をしておはするよ」(出典:蜻蛉日記(974頃)中)
- ② 形容詞・形容動詞の連用形、体言に断定の助動詞「に」の付いたもの(または、それらに助詞「て」の付いたもの)について、叙述の意を添える「ある」「いる」を敬っていう。…ていらっしゃる。…でいらっしゃる。
- [初出の実例]「このたびはいかでか辞(いな)び申さむ。人ざまもよき人におはす」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
- ① 動詞の連用形(または、それに助詞「て」の付いたもの)について、動作の継続の意を添える「ある」「いる」、動作の方向や状態の推移を示す「行く」「来る」の意を敬っていう。…ていらっしゃる。…ておいでになる。
おわすの語誌
( 1 )中古から用いられ、上代からの「います」を次第に圧倒した。訓点語に「います」「まします」が多用されたのに対し、これは仮名文に多く用いられ、訓点語の例は、ほとんどない。
( 2 )語源は「おほまします」から出た「おはします」から派生したものと考えられるが、一方、「おほます」という形の存在した可能性もあるので、これの変化したものとも考えられる。
( 3 )使用状態からみると、未然形は「おはせ」、連用形は「おはし」、連体形は「おはする」、已然形は「おはすれ」の形をとっていて、サ変の意識で用いられていたものと思われる。四段、下二段としなければならない用例は少なく、それらも、誤写の可能性が考えられて確証とはしにくい。おそらく、上代に四段だった「います」が、中古になって、連用形に「いまし」の形を残しながら下二段的な活用を生じ、サ変の意識で用いられたのとほぼ同じ過程の中で、「おはす」はその活用をサ変に固定したものかと思われる。ただし、命令形には「おはせよ」の形のほか「おはせ」の形で用いられた例がある。→います・おわします