坐す(読み)イマス

デジタル大辞泉 「坐す」の意味・読み・例文・類語

い‐ま・す【×坐す/在す】

《「」は接頭語、「ます」は尊敬語動詞》
[動サ四]
あり」「」の尊敬語。いらっしゃる。おありになる。
「言ひつつものちこそ知らめとのしくもさぶしけめやも君―・さずして」〈・八七八〉
行く」「」の尊敬語。いらっしゃる。おいでになる。
「立ち別れ君が―・さば磯城島しきしまの人は我じくいはひて待たむ」〈・四二八〇〉
補助動詞
㋐(形容詞・形容動詞の連用形、断定助動詞「なり」の連用形「に」などに付く)「」「である」の意の尊敬語。…でいらっしゃる。
こそはに―・せば」〈・上・歌謡
㋑(動詞の連用形に付く)動作の継続の意を添える「あり」、経過・移動の意を添える「行く」「」などの尊敬語。…ていらっしゃる。…ておいでになる。
松柏まつかへ栄え―・さね貴きが君」〈・四一六九〉
[動サ変]
1に同じ。
「かくてのみ―・するがいとほしや」〈落窪・一〉
2に同じ。
右大将宇治へ―・すること、なほ絶え果てずや」〈浮舟
(補助動詞)
3㋐に同じ。
「みづからが小童こわらはにてありし時、ぬしは二十五六ばかりのをのこにてこそは―・せしか」〈大鏡・序〉
3㋑に同じ。
「をこなりと見て、かく笑ひ―・するがはづかし」〈・二七八〉
[動サ下二]を下二段活用化して、使役の意をもたせたもの》
「あらしむ」「行かしむ」などの、使役の対象を尊敬していう。いらっしゃるようにさせる。おいでいただく。
他国ひとくにに君を―・せて何時いつまでかが恋ひらむ時の知らなく」〈・三七四九〉
(補助動詞。動詞の連用形に付く)…ていらっしゃるようにさせる。
「いかならむ時にか妹をむぐらふの汚なきやどに入れ―・せてむ」〈・七五九〉
[補説]で、上代には四段活用だったものが、平安時代にはサ変に変化した。ただ、漢文訓読には四段活用が残った。また、平安時代の和文では、同義の「おはす」「おはします」の使用が普通。

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精選版 日本国語大辞典 「坐す」の意味・読み・例文・類語

い‐ま・す【坐】

  1. [ 1 ] 〘 自動詞 サ行四段活用 〙 ( 尊敬語動詞「ます」に、接頭語「い」の付いたもの )
    1. [ 一 ]
      1. 存在を表わす「あり(有)」「お(を)り(居)」の、存在主を敬っていう尊敬語。いらっしゃる。おいでになる。おわす。おわします。ます。
        1. [初出の実例]「やすみしし 我が大君の 獣(しし)待つと 呉床(あぐら)に伊麻志(イマシ)」(出典古事記(712)下・歌謡)
        2. 「千年(ちとせ)へん君しいまさばすべろ木の天の下こそうしろやすけれ〈清原元輔〉」(出典:拾遺和歌集(1005‐07頃か)雑賀・一一七三)
      2. 所有を表わす「あり(有)」の、所有主を敬っていう尊敬語。おありである。おありになる。
        1. [初出の実例]「如来は慈悲いマす」(出典:岩淵本願経四分律平安初期点(810頃))
      3. 「いく(行)」「く(来)」の、動作主を敬っていう尊敬語。いらっしゃる。おいでになる。
        1. [初出の実例]「階(しな)だゆふ 楽浪道(ささなみぢ)を すくすくと 我が伊麻勢(イマセ)ばや 木幡(こはた)の 道に 逢はしし嬢子(をとめ)」(出典:古事記(712)中・歌謡)
        2. 「『こちいませ』と呼び給へば、ふとよりたる」(出典:落窪物語(10C後)二)
    2. [ 二 ] 補助動詞として用いる。
      1. ( 形容詞・形容動詞の連用形、断定の助動詞「なり」の連用形「に」(または、それらに助詞「て」の付いたもの)につく ) 叙述の意を添える「あり」の尊敬語。(…て)いらっしゃる。(…で)いらっしゃる。
        1. [初出の実例]「汝(な)こそは 男(を)に伊麻世(イマセ)ば〈略〉若草の妻持たせらめ」(出典:古事記(712)上・歌謡)
        2. 「解深(さとりふかく)慈び広く伊坐(イマ)す仏」(出典:観智院本三宝絵(984)序)
      2. ( 動詞の連用形に付く ) 動作の継続の意を添える「あり」、経過・移動の意を添える「いく(行)」「く(来)」の尊敬語。(…て)いらっしゃる。(…て)おいでになる。
        1. [初出の実例]「其(し)が花の 照り伊麻斯(イマシ) 其が葉の 広(ひろ)り伊麻須(イマス)は 大君ろかも」(出典:古事記(712)下・歌謡)
  2. [ 2 ] 〘 自動詞 サ行変 〙 ( 「います〔自サ四〕」が、中古になって活用を変化させたもの。中古になって下二段活用の「います」が発生し、四段活用の「います」と併用されたものともいう )
    1. [ 一 ]
      1. [ 一 ][ 一 ]に同じ。
        1. [初出の実例]「我子のいませんかたには、いづちもいづちもいかざらむ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)俊蔭)
      2. [ 一 ][ 一 ]に同じ。
        1. [初出の実例]「又、神通の力伊坐して、妙へに衆生の心を随へ給ふ」(出典:観智院本三宝絵(984)上)
      3. [ 一 ][ 一 ]に同じ。
        1. [初出の実例]「此の人々の、年月をへて、かうのみいましつつ宣ふ事を思ひ定めて」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
    2. [ 二 ] 補助動詞として用いる。
      1. [ 一 ][ 二 ]に同じ。
        1. [初出の実例]「壱岐(ゆき)の守(かみ)のめにていますとて」(出典:大和物語(947‐957頃)三八)
      2. [ 一 ][ 二 ]に同じ。
        1. [初出の実例]「されば帰りいましにけり」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
  3. [ 3 ] 〘 他動詞 サ行下二段活用 〙 ( 「います〔自サ四〕」を下二段に活用させて、使役性の他動詞としたもの )
    1. [ 一 ] 「あらしむ」「行かしむ」などの、使役する対象を敬っていう。いらっしゃるようにさせる。おいでにならせる。
      1. [初出の実例]「仏の殿を宅の東の方に経営(つく)りて彌勒の石像安置(ませまつ)る。三の尼を屈請(イマセ)て大会の設斎(をかみ)す」(出典:日本書紀(720)敏達一三年是歳(前田本訓))
    2. [ 二 ] 動詞の連用形について、補助動詞として用いる。(…て)いらっしゃるようにさせる。
      1. [初出の実例]「言(こと)さへく 百済(くだら)の原ゆ 神葬(かむはぶり)(はぶ)り伊座(イませ)て」(出典:万葉集(8C後)二・一九九)

坐すの語誌

( 1 )奈良時代は一般に用いられたが、平安時代には和文にあまり見られず、漢文訓読文に用いられている。
( 2 )訓読文では、「有り・居り」の尊敬語としてだけ用いられていて、意味が縮小されている。まれに和文に見えるときは、軽い非難や揶揄が込められていたり、田舎びて、古風で形式的な語として扱われたりしていて、敬度は類義語の「おはす」より低い。

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