日本大百科全書(ニッポニカ) 「オーフス条約」の意味・わかりやすい解説
オーフス条約
おーふすじょうやく
Aarhus Convention
環境に関する決定への公衆参加等を定める条約。正式名称は「環境に関する情報の取得ならびに環境に関する決定過程への公衆参加および司法救済に関する条約UN/ECE Convention on Access to Information, Public Participation in Decision-making and Access to Justice in Environmental Matters」。1998年6月デンマークのオーフスで国連ヨーロッパ経済委員会(ECE)によって採択され、2001年10月に発効した。
ヨーロッパ諸国は、環境問題の解決にあたって情報公開と公衆参加を重視してきており、1990年にはヨーロッパ共同体(EC)によって環境情報取得の自由に関する指令が採択された。情報公開と参加は、1992年の環境と開発に関する国連会議で採択されたリオ宣言の原則10においても定められた。これらを受けてECEは、情報取得と公衆参加に関するソフィア・ガイドラインを1995年に採択した。その内容に基づいて作成されたのがこの条約である。
この条約には以下のことが定められている。第一に、公衆には環境に関する情報取得の権利が保障されており、公的機関は、随時情報を収集し、公開し、提供しなければならない、としている。環境に関する情報の範囲は広く、健康、安全、文化などの分野も含まれ、環境部局だけでなくすべての公的機関が対象となる。国防、公安、知的財産権、商業機密などにかかわる情報については提供を拒むこともできるが、その理由を開示しなければならない。第二に、環境に関する決定過程への公衆参加を保障しなければならない、としている。その際、すべての選択肢が残っている十分早い時期から、時間的な余裕をもって効果的に準備することができるように、また、無料で参加できるようにすることが重要とされている。最終決定も、その根拠と検討状況を明示して公表されなければならない。第三に、誰に対しても司法救済を受ける権利が保障されなければならない、としている。それには差止め措置も含まれ、行政機関または第三者機関による不服審査プロセスも含まれる。前記の情報取得および公衆参加にかかわる不服申立てなども対象になる。その救済手段は十分かつ効果的なものでなければならず、経済その他の阻害要因を取り除くことが求められている。
以上の権利を各人が行使することによって、処罰されたり、訴追されたり、差別されたり、不利益を受けたりしないことも定められている。なお、その第1条においては、条約としては初めて、締約国に対して、健全で豊かな環境に生活する権利を現在および将来の世代のすべての人に保障するよう義務づけている。
[磯崎博司 2021年9月17日]
エスカス協定
国連環境計画が他地域にもオーフス条約と同様の取組みを促したのにこたえて、国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会において、2018年3月に、ラテンアメリカおよびカリブにおける環境分野の情報入手・決定参加・司法利用に関する地域協定(エスカス協定Escazú Agreement。コスタリカのエスカスで採択したことにちなむ)が採択され、2021年4月に発効した。オーフス条約と同様に、現在および将来のすべての人の健全で豊かな環境に生活する権利の保護に向けて、情報入手・決定参加・司法利用に関する公衆の権利を保障するために必要な法的・行政的措置をとるよう締約国に義務づけている。
他方、同協定はオーフス条約とは異なって、平等・非差別、透明性・説明・公開、非後退・前進、信義・誠実、防止・予防、世代間衡平、自然資源恒久主権、主権平等、人権などの、前提とされる諸原則を明記している。また、環境分野の人権保護活動者の行動の自由の保障と、それに反する攻撃や脅迫行動の防止と処罰を義務づけている。しかしながら、その背景には、世界の環境保護活動者に対する殺害事件の約60%がこの地域で発生していることがあり、人権保障はこの協定にとって大きな挑戦であるとともに課題でもある。
[磯崎博司 2021年9月17日]