改訂新版 世界大百科事典 「カタクリ」の意味・わかりやすい解説
カタクリ (片栗)
Erythronium japonicum Decaisne
北日本の春先をいろどる美しいユリ科の多年草。淡く鮮やかな紫色の色あいと,花弁のつけ根にある濃紫色の斑紋とのコントラストがみごとで,くるりと反転した花弁のかわいらしさが親しまれている。鱗茎は地下深く入ることで有名で,地表近くで発芽した後,根の牽引作用によってしだいに地下へもぐる。葉は地表付近に1対展開し,長い葉柄がある。表面はウズラの卵の模様に似た紫斑がある。花茎は高さ20~25cmで,頂端に1花のみをつけ,花はややうつむいて咲く。花期は4~5月。花弁基部のW字形の斑紋は送粉昆虫を誘導するためのマークであると考えられている。花弁基部付近には蜜腺がある。栽培して観賞用とされるほか,鱗茎からは良質のデンプンがとれる。以前は石臼でひき,木綿でこして片栗粉をとった。現在,市販されている片栗粉は量産されたジャガイモやトウモロコシのデンプンである。鱗茎はまた,そのまま煮て食べてもおいしく,若葉もゆでて食べられる。カタクリ属Erythronium(英名dogtooth violet,adder's tongue)の分布の中心は北アメリカで,15種が知られており,花色は黄色や橙色など変化に富む。これらは観賞用に栽培されるが,日本ではまだそれほど普及していない。
執筆者:矢原 徹一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報