かめない、飲み込めないときの食事調理法(読み)かめないのみこめないときのしょくじちょうりほう

食の医学館 の解説

かめないのみこめないときのしょくじちょうりほう【かめない、飲み込めないときの食事調理法】

《煮ものを中心にして食材にはとろみをつける》
 一般的には高齢者だからといって、消化のよいやわらかいものばかりを食卓にだすことは、おすすめできません。適度に歯ごたえのあるものをかむことで、唾液(だえき)消化液分泌(ぶんぴつ)がうながされて消化吸収が高まりますし、また、かむ刺激によって脳細胞も活性化されるからです。
 しかし高齢者のなかには、脳血管障害によるまひや口腔内(こうくうない)の炎症などが原因で、うまくかめなかったり、咀嚼(そしゃく)はできても飲み下すことができない人がいます。
 こうした場合、消化吸収のよい食品を選び、調理のしかたについてもくふうする必要があります。
〈咀嚼に問題がある場合〉
 まず、どの程度のかたさならかめるのかを知っておきましょう。くだものなど、その人の好物をだして判断してみるといいでしょう。
 調理形態としては、焼いたり炒(いた)めたものより、やわらかく煮たものが適しています。
 軽度の場合は少し歯ごたえが残る程度に、中~重度の場合は、舌と口蓋(こうがい)で楽に押しつぶせるやわらかさに調理します。
 食材は多少厚みがあったほうが口の中で押しつぶしやすく、かめないからといって食材を細かく刻むと、かえって食べにくくなってしまいます。下ごしらえの段階で、野菜には隠し包丁を入れるなどしてくふうしてみてください。
〈嚥下に問題がある場合〉
 ふつうは、咀嚼した食べものを舌でのどの奥に送り込むと、嚥下(えんげ)反射が起こって飲み下す(ゴックンする)ことができます。
 しかし、大脳(だいのう)の認知機能に障害があると、のどへの送り込みができなかったり、嚥下反射が起こりにくくなります。
 このため、なかなか飲み下すことができなかったり、タイミングがずれてむせたりします。
 このように嚥下機能が低下している場合は、食材に油脂や生クリームを混ぜたり、片栗粉(かたくりこ)増粘剤(ぞうねんざい)などでとろみをつけると、滑りがよくなり食べやすくなります。ただし、滑りがよすぎても、むせや誤嚥(ごえん)の原因になるので、少しかためにとろみをつけるようにします。
 お茶や汁ものなどのサラサラした液体も、咽頭(いんとう)へ落ちるスピードが速く、むせやすいので、やはり増粘剤を使って適度にとろみをつけたり、ゼラチンや寒天でゼリー状にするといいでしょう。
〈適さない食品〉
 かまぼここんにゃくレンコンなど、かむと口の中でバラバラになるものは、咀嚼しずらく、また、なかなかひとかたまりにならないので飲み込みにくい食材です。
 パンやカステラなど、水分が少なくパサパサしたものも、口の中で唾液と混じって粘性の高いかたまりになってしまうために飲み下しにくく、適しません。
 もともと粘性が高いモチやだんご、咽頭に張りつきやすい焼きノリやワカメウエハースなども避けたいものです。
 ほかにタコ、イカ、ゴボウなどのかたいものはもちろん、酢のものなど酸味の強いものも、むせやすいので注意が必要です。
《フードプロセッサーを活用し栄養バランスをとる》
 毎日の食事をやわらかい食材ばかりに頼っていると、どうしても栄養がかたよってきます。
 とくに食物繊維やビタミンC、B1、B2カルシウムなどが不足しがちです。それを避けるには、やはりできるだけ多くの食品をまんべんなくとることです。
 そのままでは適さない食品も、フードプロセッサーでペースト状にするなど、調理にくふうすることで食べやすくすることができます。
〈肉類〉
 肉たたきや包丁の背でよくたたき、繊維をやわらかくします。さらに筋切りもしっかり行います。
 下ごしらえの段階で、酒や酢、リンゴタマネギのすりおろしをまぶしておくとやわらかくなります。
 重度の場合は、蒸(む)した鶏肉などをミキサーにかけ、生クリームやゼラチン液を混ぜるなどしてムース状に仕上げます。
〈魚介類〉
 煮魚にすると水分が染みてやわらかくなります。刺身ならたたきにするといいでしょう。イワシすり身をすり流し汁にしたり、はんぺんなども活用したいものです。
 一般に脂(あぶら)が多い魚は身がやわらかく、焼き魚や蒸し魚にしても食べやすいものですが、焼きすぎや蒸しすぎは身をかたくしてしまいます。
 重度の場合は、調理した魚をミキサーにかけ、ゼラチンでソフトにかためます。
〈たまご〉
 茶碗蒸しやたまごどうふ、温泉たまごなどが適しています。またプリンやカスタードクリーム、ミルクセーキにする方法もあります。良質のたんぱく質なので、1日1個はとるようにします。
〈牛乳・乳製品〉
 牛乳も各栄養素をまんべんなく含んだ優秀な食品です。そのまま飲むとむせてしまう場合は、でんぷんや増粘剤でとろみをつけます。
 そのままでも食べやすいヨーグルトを利用する方法もあります。
 また牛乳を使った料理では、グラタンやクリームシチュー、クリームスープなどが適しています。
〈豆類〉
 ダイズ類は、そのままでは消化吸収がよくないので、とうふや豆乳(とうにゅう)、味噌などの加工された食品を利用します。
 重度の場合、豆乳をゼラチンでソフトにかためます。
〈野菜・イモ類〉
 切るときは、繊維に直角に切るのがポイントです。
 食べやすくするには、やわらかく煮たりゆでる、すりつぶす、裏ごしする、ミキサーで野菜ジュースにするなどがあります。
 ダイコン、ニンジン、タマネギ、カブ、キャベツ、カリフラワー、ブロッコリーなどは積極的に利用したい野菜です。
 ただ、キャベツなどの葉もの野菜は口に張りつきやすいので、ゆでたうえで細かく刻んでとろみをつけるといいでしょう。
〈くだもの〉
 モモやバナナなど、果肉がやわらかく、酸味の強くないものが適していますが、野菜と同様、すりおろしたり、ジュースにすることで、たいていのものは食べやすくなります。
 重度の場合、水分を多くしてやわらかいフルーツゼリーにします。
〈穀類〉
 米は水加減を調節して、おもゆからご飯まで、その人に合ったやわらかさにします。重度の場合は、おもゆゼリーにします。パンは一口大に切り、ミルクに浸したり、パンがゆにすると食べやすくなります。
〈油脂類〉
 のどごしをよくするので、適度に使います。とくに低栄養状態の人には、シソ油やオリーブ油など良質の植物油をじょうずに活用しましょう。

出典 小学館食の医学館について 情報