改訂新版 世界大百科事典 「カラスノエンドウ」の意味・わかりやすい解説
カラスノエンドウ (烏豌豆)
Vicia angustifolia L.
ソラマメと同属の野生のマメ科の一年草または越年草。ヤハズエンドウ(矢筈豌豆)とも呼ばれる。道ばたや野原などの日当りのよい場所にふつうな雑草。茎はつる状で,長さ150cmに達し,葉の先の巻きひげによって他物に巻きつく。葉は8~16枚の偶数枚の小葉をもつ羽状複葉で,基部の托葉の中央には黒褐色の大型の腺点がある。小葉は狭倒卵形で先端はくぼんでおり,長さ2~3cm。花は紅紫色で3~6月に咲き,葉腋(ようえき)に1~3花ずつつき,長さ12~18mm。豆果は広線形で長さ3~5cm,幅5~6mmあり,無毛。熟すと莢(さや)は黒変し,2片に裂ける。中に5~10個の球形の種子がある。ユーラシア大陸の暖温帯に分布し,日本全土の低地山麓などでみられる。
カラスノエンドウの名は熟した豆果が黒色になることをカラスにたとえたもので,若い豆果はサヤエンドウに似ている。このため同じ属で小型の豆果をもつ種類はスズメノエンドウ(雀豌豆)と呼ばれ,両種の中間の種類はカラスとスズメの間という意味でカスマグサと呼ばれている。ヤハズエンドウの名は小葉の先端が矢筈に似ることによる。
スズメノエンドウV.hirsuta(L.)S.F.Grayはカラスノエンドウと同じような場所に生える。全体が小型で,托葉に腺点がない。小葉は長さ10~17mmで先は円い。花は白紫色で長さ3~4mm,葉腋から2~5cmの花梗をだし,先に約4花がつく。豆果は長楕円形で短毛があり,長さ6~10mm,2個の種子を入れている。本州から琉球までに生え,ユーラシアとアフリカ北部の暖温帯に分布する。
カスマグサV.tetrasperma(L.)Schreb.も前2種と同じような生育地に生える。前2種の中間の大きさで,托葉に腺点はなく,花は淡青紫色,長さ5~7mm。豆果は長さ8~20mmで無毛,3~6個の種子を入れている。本州から琉球に生え,ユーラシアの暖温帯に分布する。
クサフジV.cracca L.は山地の日当りのよい草地や林縁にみられる多年草で,葉は18~24枚の小葉がある。6~15cmの長い花序に多数の青紫色の花が集まって,5~9月に咲く。花は長さ10~12mmあり,目だって美しい。北海道,本州,九州に生え,北半球の温帯から亜寒帯に広く分布する。
カラスノエンドウの仲間(ソラマメ属Vicia,英名vetch)は,北半球の温帯域を中心に150種あまりが分化し,食用にされるソラマメをはじめ,飼料にされるベッチ類や緑肥としても重要な植物が含まれる。
執筆者:大橋 広好
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報