ガイム(読み)がいむ(その他表記)Andre Geim

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ガイム」の意味・わかりやすい解説

ガイム
がいむ
Andre Geim
(1958― )

物理学者。ロシア(当時はソ連)のソチで、ドイツ系ユダヤ人の家庭に生まれる。国籍オランダ。1987年ロシア科学アカデミーの固体物理学研究所で博士号を取得した。その後、イギリスのノッティンガム大学、バース大学、デンマークコペンハーゲン大学などで博士号取得後も大学の研究者として従事し、オランダのナイメーヘン大学準教授を経て、2001年イギリスのマンチェスター大学の物理学教授となる。グラフェンGrapheneという物質の製法を研究開発。2010年に「二次元物質グラフェンに関する革新的な実験」の業績により、コンスタンチン・ノボセロフとノーベル物理学賞を共同受賞した。

 博士研究員としてヨーロッパ各地を転々とした後、初の終身在職権を得たナイメーヘン大学準教授のとき超伝導の研究に取り組み、ここでオランダの国籍を取得した。そのとき研究パートナーとなったのが、ノーベル賞の共同受賞者ノボセロフである。2004年に、二人は、厚さ1ミリメートルの黒鉛粘着テープではがすことを繰り返し、炭素1個分の薄さの物質をつくることに成功した。この物質は、炭素が六角形につながったシート状のものであり、厚みは原子1個分しかない。これがグラフェンである。そして、グラフェンを丸めた形にしたものがカーボンナノチューブである。

 グラフェンは、金属ではないのに電気を通し、室温でもシリコンの1000倍の速さで電子が移動する。また、グラフェンはガスも通さないほど緻密だが透明であるという物理特性が確認され、シリコンに代わる電子素材として世界中で応用研究が盛んになった。携帯端末の透明なタッチパネル、太陽電池、超高速トランジスタなど、グラフェンを用いた実用機器の利用が爆発的に広がっている。

 ヤモリの足の裏の物理的な原理を取り入れた粘着テープも発明している。このテープは、ゲッコテープGecko tapeとよばれており、強力な吸着力がある。これを用いて、垂直な壁面を移動できるヤモリ型ロボットが開発され、災害救助などへの応用が期待されている。また重力と反対方向に重力と等しい磁気力を作用させて生きたカエルを磁気浮上させる実験に成功し、2000年にイグ・ノーベル賞も受賞している。

[馬場錬成]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ガイム」の意味・わかりやすい解説

ガイム
Geim, Andre

[生]1958.10.1. ソチ
ソビエト連邦生まれの物理学者。オランダの市民権をもつ。モスクワ物理工科大学 MIPTを経て,1987年固体物理学研究所で博士号を取得。マイクロエレクトロニクス研究所研究員,ノッティンガム大学などの博士研究員を経て,1994年オランダのラドバウト・ナイメーヘン大学准教授,2001年イギリスのマンチェスター大学教授。グラファイト(→石墨)塊の表面に粘着テープをはりつけてはがし,薄いかけらを酸化シリコン基板にはりつけ,1枚のシート状のものを光学的な方法や原子間力顕微鏡で選ぶという方法で,グラファイトから一つの原子分の厚さで 2次元シート状にひろがる炭素結晶グラフェンを取り出すことに成功。グラフェンは電子の速さがほかの物質よりも速く,強度が高いなど優れた性質をもつため,基礎・応用の両面にわたる発展が期待された。グラフェンの発見でコンスタンチン・ノボセロフとともに 2010年ノーベル物理学賞を受賞。高磁場中で生きたカエルを浮かせた実験で 2000年には珍奇な研究に与えられるイグ・ノーベル賞も受賞している。グラフェンのほか,超伝導メゾスコピック系物理学を専門とする。

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