ノルウェー出身の世界的な平和学者。オスロに生まれる。1956年に数学で、1957年に社会学で博士号取得。1959年オスロ国際平和研究所設立、所長を務める(~1969)。1964年『Journal of Peace Research』を発刊、1974年まで編集委員長。平和学の創生期に重要な理論活動を行った。アメリカのコロンビア大学講師・助教授(1957~1960)、オスロ大学教授(1969~1977)、国連大学コーディネーター(1977~1981)、フランスのヌーベル・トランスナショナル大学学長(1984~1995)、ハワイ大学特別教授(1987~1995)、ノルウェーのトロムソ大学教授(1995~1999)、立命館大学教授(1997~1999)。国連の専門機関のコンサルタントも多数務める。1993年よりNGO「トランセンドTRANSCEND」を主宰。著書・論文多数。
戦争の不在としての「消極的平和」に対して、幸福や福祉や繁栄が保障されているという意味での平和を「積極的平和」とよんで区別した。これに対応して、平和の対立概念である暴力についても、戦争・殺人などの直接的暴力に対して、抑圧や搾取が行われている状態である構造的暴力という概念を提出し、その両者が克服されなければならないとした。構造的暴力という考え方は、平和学の対象を開発途上国が直面する困難という問題にまで広げることとなり、平和学の理論の発展に貢献した。
平和学を打ち立てたこの巨人は、該博な知識の持ち主で、対象を一面的にとらえるのでなく歴史的にも地理的にも非常に多面的に考察し、せめぎ合いの向こうにそれらを超越する新しい解決方法の地平を展望する。彼は平和学者として国際問題の紛争解決について助言・提案を行うなかで、紛争当事者との対話・議論の経験から、紛争解決ではなく、紛争転換のためのトランセンド(超越)法を編み出した。トランセンド法とは平和創造の主体形成のための方法であり、対話と創造性に基づき、紛争を非暴力的に転換していこうとする実践・訓練・研究のことである。彼が1990年代以降主宰していた「トランセンド」というNGOでは、実際に紛争を調停する役割を担う人々のトレーニングを行うための各種プログラムが企画・立案されている。また、実践的にも国際紛争の診断・治療・予後といった枠組みで国際問題の解決にも貢献しようとしている。2003年からトランセンド平和大学(オンライン)が開校。
[伊藤武彦 2018年7月20日]
『J・ガルトゥング著、高柳先男・塩屋保訳『平和への新思考』(1989・勁草書房)』▽『ヨハン・ガルトゥング著、高柳先男他訳『90年代日本への提言――平和学の見地から』(1989・中央大学出版部)』▽『ヨハン・ガルトゥング著、高村忠成訳『仏教――調和と平和を求めて』(1990・東洋哲学研究所)』▽『ヨハン・ガルトゥング述、三鷹市・ICU社会科学研究所編訳『市民・自治体は平和のために何ができるか――ヨハン・ガルトゥング平和を語る』(1991・国際書院)』▽『ヨハン・ガルトゥング著、高柳先男・塩屋保・酒井由美子訳『構造的暴力と平和』(1991・中央大学出版部)』▽『池田大作、ヨハン・ガルトゥング著『対談 平和への選択』(1995・毎日新聞社)』▽『ヨハン・ガルトゥング、安斎育郎著『日本は危機か』(1999・かもがわ出版)』▽『ヨハン・ガルトゥング著、伊藤武彦編、奥本京子訳『平和的手段による紛争の転換――超越法』(2000・平和文化)』▽『Johan Galtung, Carl G. JacobsenSearching for Peace ; the road to TRANSCEND(2000, Pluto Press, London)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新