平和研究(読み)へいわけんきゅう(英語表記)peace research

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

平和研究
へいわけんきゅう
peace research

平和学ともいう。平和の確立を目指しながら,戦争の諸原因と平和の諸条件を究明することを課題とする新しい研究分野。国際体系という一種の社会現象を研究の対象とし,国際関係に生起する個別的,具体的な諸問題について,各種の法則論的知識を援用しながら因果関係を追究する。さらに戦争がない状態でも公正や平等が世界的に実現していなければ平和とはいえないという考え方に基づいて,そうした状態を説明する概念として「構造的暴力」という概念が提起され,南北問題などが平和研究の重要な関心対象となっている。 1924年にチェコスロバキアのプラハ大学で開講された講座が始りとされ,平和研究の先駆としては,Q.ライトの"A Study of War" (1942) や T.レンツの"Towards a Science of Peace" (52) などがある。 1950年代の末頃から東西ヨーロッパ,カナダ,アメリカ,北欧などに次々と平和研究機関が設立され,65年には国際平和研究学会が組織され,活発な国際交流のもとに急速な発展をとげている。国際学会としては,ほかに国際平和学会がある。日本では広島にある「広島平和教育研究所」と「平和科学研究センター」が独自の平和研究,平和教育を組織しており,研究者は 66年結成の「日本平和研究懇談会」,73年設立の「日本平和学会」などによって平和研究を進めている。 80年には日本で「アジア平和研究国際会議」が開かれ,それを契機に「アジア平和学会」も設立された。

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知恵蔵の解説

平和研究

平和価値を実現する条件や過程を、科学的に探求する学問。平和の実現という規範的な問題関心を明示する点で、価値中立を標榜する他の社会科学と異なる。しかし事実認識の検証方法やテクニックは他の社会科学と同様。第2次大戦後の米国で体系化が開始。1950年代末以降、ラパポート(A.Rapoport)やボールディング(K.Boulding)を中心に行われ、Journal of Conflict Resolutionを発刊。米国では大学を始め1000以上の平和研究関係の講義がある。欧州ではガルトゥング(J.Galtung)の指導の下にオスロ国際平和研究所(PRIO)が59年に創立、Journal of Peace Researchを発刊。66年にストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が設立、軍備・軍縮や武器輸出のデータなどを含む年鑑の発刊や東西間の研究交流が始まった。また60年代後半より南北格差への関心が高まり、構造的暴力の克服などを課題として、平和という概念の再構成も試みられ、環境・人権・ジェンダーを含めて研究されている。65年に国際平和研究学会(IPRA)が発足、世界各地域の研究促進が図られている。さらに、米印日3国の平和研究機関の共同編集による雑誌Alternativesも刊行。日本では73年、日本平和学会が創立。広島大、明治学院大、国際基督教大などが平和研究所を持ち、全国の大学・短大で、100余の平和研究・平和学の講義がある。

(坂本義和 東京大学名誉教授 / 中村研一 北海道大学教授 / 2007年)

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百科事典マイペディアの解説

平和研究【へいわけんきゅう】

〈平和とはなにか〉を探究し,平和価値の実現のための諸方策を理論的・科学的に研究する学問。平和学,平和科学ともいう。1924年にチェコスロバキアのプラハ大学に平和研究の講座が設けられたのが最初。第2次大戦後,核兵器の開発によって人類破滅の危機が生じたことで世界中の学者が平和研究の必要性を実感し,1957年のパグウォッシュ会議において,平和研究推進のアピールが出された。アメリカではボールディングKenneth Boulding,ラパポートAnatol Rapaportらを中心に学問的な体系化が試みられた。また,〈構造的暴力〉の概念を提起し,オスロ国際平和研究所(1959年)の創設に関わったガルトゥングJohan Galtungはボールディングらとともに1965年国際平和研究所(IPRA)を設立。平和研究の国際学会として各国の平和研究推進のセンターとなっている。また,国連のユネスコによる平和研究シンポジウムも大きな役割を果たしている。日本では1973年に日本平和学会が設立され,広島大学平和科学研究センター,広島市立大学広島平和研究所などの平和研究機関がある。→ストックホルム国際平和研究所
→関連項目国際政治学

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世界大百科事典 第2版の解説

へいわけんきゅう【平和研究 peace research】

平和研究とは,平和についての知識の体系というよりは,むしろ平和という価値の実現に役立つ条件や方法を科学的,客観的に探究する学問運動である。平和研究が応用科学といわれるゆえんである。それは本質的に規範的な性格をもつが,厳密な実証主義ないしは経験主義にたち,そのかぎりで主観的契機の勝る平和運動や平和思想とは異なる。しかも,平和というもともと多元的な価値を研究の対象とするかぎりにおいて,方法的には学際的にならざるをえない。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

平和研究
へいわけんきゅう
peace research

紛争(戦争)の原因と平和の条件を科学的に究明し、人類社会の変容過程を創造的にデザインする学問であり、平和学peace science, peace studiesともよばれる。
 平和研究は、核の出現と冷戦の高進によって人類が生か死かという人類絶滅の危機に直面した1950年代後半、「人類生存の科学」として欧米で誕生した。それは当初「消極的平和」negative peaceつまり戦争(直接的ないし行動的暴力)の回避・不在の研究を主にしていた。しかし60年代に入り、南北問題の登場とともに平和研究もその対象領域を拡大し、ガルトゥングJ. Galtungの提起した構造的暴力structural violenceの問題を包摂することになった。社会構造そのもののなかにビルト・インされた貧困、飢餓、政治的抑圧、疎外などの研究を指向し、人権や正義の達成された人類社会の統合と調和を目ざす「人間性実現の科学」を目標とするようになった。ひとことでいえば「積極的平和」positive peaceの研究である。とはいえ、70年代における米ソの限定核戦争構想の展開は、平和研究の焦点をふたたび戦争の問題に回帰させた。なお、冷戦後の第三世界の軍事化の進行や世界各地の民族・地域紛争の頻発は、平和研究における戦争(紛争)研究の重要性を示すものである。平和や暴力の概念の多義性のゆえに、平和研究の課題は多様である。紛争と紛争の解決、代替安全保障alternative security、発展と社会正義、世界秩序、などがそれである。なお、80年代に入って地球環境悪化の加速に伴い、環境問題も平和研究の大きな課題になっている。
 このように平和研究は、平和を目標価値とする実践的、政策学的な応用科学である。その研究方法はきわめて学際的であり、単に社会科学のみならず自然科学に属する異学問間の協力が不可欠である。また平和研究は、その誕生以来半世紀近くを経て内容的にも地理的拡大という点においても飛躍的に発展し、その制度化も着実に進んでいるが、その成果が平和の構築に寄与しうるためには、平和教育や平和運動との関連性が重視されねばならない。1965年には国際的学術交流の場として国際平和研究学会(IPRA)が設立され、日本では73年(昭和48)に日本平和学会(PSAJ)が発足し、現在世界屈指の会員数を擁し、機関誌『平和研究』を刊行している。[臼井久和]
『川田侃著『軍事経済と平和研究』(1969・東京大学出版会) ▽日本国際政治学会編『国際政治54 平和研究』(1976・有斐閣) ▽日本平和学会編『平和学――理論と課題』(1982・早稲田大学出版部) ▽山田浩編『新訂平和学講義』(1985・勁草書房) ▽ガルトゥング著、高柳他訳『構造的暴力と平和』(1991・中央大学出版部) ▽International Peace Research Institute, Oslo, Journal of Peace Research(Sae Pub.)』

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世界大百科事典内の平和研究の言及

【国際政治学】より

…しかし最近ではこれら三つを統合する原理への模索が,さまざまな角度から進んでいる。行動科学的方法ではグローバル・シミュレーション,歴史理論的には地球政治学の成立,価値理論的には平和研究などである。 従来のアメリカ中心の国際政治学史では,伝統的国際システム論,いくつかの型の対外政策決定論,いくつかの型の相互依存論・新機能主義的統合論,さまざまなレベルの連係政治論,国際政治の地域文化的近代化論,従属論,中心・周辺論,国際政治のヘゲモニー国家ないし同盟論などが,ほぼこの順序で展開されてきた。…

※「平和研究」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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