日本大百科全書(ニッポニカ) 「キシリトール」の意味・わかりやすい解説
キシリトール
きしりとーる
xylitol
五炭糖であるキシリットが還元された、ショ糖に近い甘味を有する糖アルコールで、甘味料として用いられる。木材(広葉樹)から麦わら、トウモロコシの穂軸にいたるまで広く分布しているキシランを加水分解後、還元して製造される。シラカバやカシの樹脂からとれる天然成分を原料におもにフィンランドで生産されており、その安全性についてはWHO(世界保健機関)でも認められている。砂糖と比べて、カロリーは25%も低く糖度は変わらない。
むし歯はその原因となるう蝕原性の細菌(ミュータンス菌mutans)によって不溶性グルカンを合成し(プラークつまり歯垢(しこう)形成)、このとき産出される酸が歯のエナメル質を溶かすことで発生する。キシリトールはう蝕原因菌によって発酵しないため、むし歯のもとになる酸がほとんど発生しない。日本でも1997年(平成9)に厚生省(現厚生労働省)により食品添加物に指定され、ガム、キャンディーなどの菓子類、歯みがき剤、洗口剤などにも使われるようになった。唾液(だえき)分泌を増加させ口腔(こうくう)内の防御機構を高め、う蝕原因菌の増殖を抑制し、歯の健康を守る。小腸から吸収されるが、非吸収部分は腸内細菌により短鎖脂肪酸に分解され、吸収される。肝臓でグリコーゲンやグルコースに変えられ代謝される。動物体内での代謝はインスリンの作用を介さず、血糖に影響を与えないため、糖尿病用の食事、術後の輸液にも使われている。
[菅野道廣]
『大貫稔著『副腎皮質とキシリトール』(1977・共立出版)』▽『溝口敦著『食卓の怪談』(1994・小学館)』▽『今井奨・寒河江登志朗著『イラストでみるこれからのむし歯予防――キシリトールとアパタイトを正しく理解する』(1997・砂書房)』