ギッシュ(その他表記)Lillian Gish

改訂新版 世界大百科事典 「ギッシュ」の意味・わかりやすい解説

ギッシュ
Lillian Gish
生没年:1896-1993

アメリカの映画女優。〈サイレント・スクリーンに現れたもっとも偉大なヒロイン〉と評され,D.W.グリフィス監督作品の主演女優として数々の名作を残した。オハイオ州生れ。5歳のときから舞台に立ち,メリー・ピックフォードの紹介で妹のドロシーとともに1912年,グリフィスのバイオグラフ社に入り,《見えざる敵》でデビュー。15年,危地におちる南部名家令嬢を演じた《国民の創生》の大ヒットで彼女の名も世界的に有名になり,《イントレランス》(1916)では四つのエピソードをつなぐかなめとなる揺籃をゆする象徴的な母のイメージを演じた。《散り行く花》(1919)では〈白いつぼみ〉と呼ばれるかれんな貧しい少女を,《東への道》(1920)では心ない中傷に悩まされる薄幸な娘を演じた。とくに後者流氷とともに滝に向かって流されるクライマックスは名高く,またフランス革命の嵐の中で残酷な運命にもてあそばれる姉妹役でドロシーと共演した《嵐の孤児》(1921)ではギロチンで処刑されそうになる。その〈はかない美〉と〈純情かれん〉な愛らしさはグリフィスの〈ビクトリア朝時代的な感傷〉を的確に表現するとともに,グリフィス得意の〈最後の瞬間の救出last minute rescue〉をいやがうえにも効果的にし,〈理想的なグリフィス・ヒロイン〉となった。喜劇的でおてんばなタイプの妹ドロシーに対し,悲劇的なイメージが強いが,グリフィスの故郷ケンタッキーを舞台にした田園ロマンス物《幸福の谷》(1919)などでは,喜劇的な演技にも才を見せた。22年,グリフィスと離れMGMでビクトル・シェストレム監督の《緋文字》(1925)などに主演したが,28年に,グレタ・ガルボ台頭に押されるようにしてユナイテッド・アーチスツに移籍した。

 その後舞台女優として活躍したが,40年代からは性格俳優としてスクリーンにカムバック,キング・ビドア監督《白昼決闘》(1946),ジョン・ヒューストン監督《許されざる者》(1960)などで気品のある老婆を演じ,80代になってからもロバート・アルトマン監督《ウエディング》(1978)や舞台で活躍を続けた。70年にアカデミー特別賞を受賞。また,監督としてドロシー・ギッシュ主演の《亭主改造》(1920)を撮った。なお,トリュフォー監督《アメリカの夜》(1973)はリリアンとドロシーの姉妹にささげられている。
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百科事典マイペディア 「ギッシュ」の意味・わかりやすい解説

ギッシュ

米国の俳優。オハイオ州生れ。5歳の時から舞台に立ち,1912年姉のドロシーとともに映画界入り。D.W.グリフィス監督の《国民の創生》(1915年),《イントレランス》(1916年),《散り行く花》(1919年),《嵐の孤児》(1921年)などに出演し,純情・可憐な容姿と演技で映画草創期の代表的なヒロインとなった。1930年代には舞台で活動するが,1940年代に映画界にカムバックし,上品な老け役を演じた。主な作品にC.ロートン監督《狩人の夜》(1955年),J.ヒューストン監督《許されざる者》(1959年)などがある。L.アンダーソン監督《八月の鯨》(1987年)でカンヌ映画祭特別賞を受賞するなど,晩年にいたるまで現役であり続けた。
→関連項目ミッチャム

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ギッシュ」の意味・わかりやすい解説

ギッシュ(姉妹)
ぎっしゅ

姉リリアンLillian Gish(1896―1993)、妹ドロシーDorothy Gish(1898―1968) アメリカの映画女優。姉妹ともオハイオ州生まれ。貧困の家庭に育ち、ともに子役として1902年に初舞台、12年にグリフィス監督のもとで映画デビュー、『世界の心』(1918)、『嵐(あらし)の孤児』(1922)などに姉妹で共演した。姉は純情可憐(かれん)で薄幸なヒロインを演じてサイレント期の大スターとなった。30年代は舞台に専念、40年代以降は映画、舞台、テレビに老女役で長いキャリアを保った。代表作は『国民の創生』(1915)、『イントレランス』(1916)、『散り行く花』(1919)。喜劇的な素質をもつ妹はロマンチック・コメディで活躍、1928年以降は舞台に専念したが、ときおり映画にも出演した。

[畑 暉男]

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世界大百科事典(旧版)内のギッシュの言及

【散り行く花】より

… ドイツから表現主義の映画《カリガリ博士》(1919)が輸入されて,〈映画芸術(フィルム・アート)〉ということばが新しくアメリカ語になったころで,〈ソフトフォーカスのリリシズム〉と〈クローズアップの多用を控えた抑制の利いた編集〉にはグリフィスが〈芸術〉を意図した跡が見られ,〈ディケンズがカメラで語ったようだ〉とも〈グリフィスは絶叫することばかりでなくささやきかけることにかけても達人であることを証明した〉とも評された。 薄幸のヒロインを演じたリリアン・ギッシュは,1912年にグリフィス作品《見えざる敵》でデビュー以来,いわばグリフィスの子飼いのスターであったが,この映画で初めて対等の協力者として自分の解釈に基づく演技を許されたという。不幸な境遇のため笑顔を忘れたヒロインが,父親に〈笑え!〉と脅かされて指で唇に微笑のかたちをつくるシーンは,悲哀にみちた名場面として知られるが,〈笑わぬ喜劇王〉としてその無表情ぶりで有名なバスター・キートンは,《キートン西部成金》(1925)でそのパロディを演じた。…

※「ギッシュ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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