風や海流などの影響で漂流している海氷。英語ではドリフトアイスdrift iceと総称するが、氷塊の密集度が10分の7以上の流氷域には、パックアイスpack iceも用いられる。形や分布はさまざまである。これに対し、海岸に固着している海氷は定着氷とよばれる。風による流氷の動きは、おおむね風速の40分の1の速さであるが、氷の形や密集状態によってかなりの違いがあり、氷の表面に起伏が多く、またばらついた流氷ほど速く動く。
オホーツク海では、平均的には10月末ころ北部沿岸で結氷が始まり、厚さを増しながら結氷域を広げる。これらは季節風や海流によって南方に運ばれ、1月なかばには流氷となって北海道沿岸に現れる。流氷域はしだいに広がって3月上旬に最盛期となり、オホーツク海の約80%が流氷に覆われる。流氷の勢力の強い年には、根室海峡や千島列島の海峡を通って太平洋側に流れ出て釧路(くしろ)沖に、ときには襟裳(えりも)岬を回って日高沿岸にも及ぶことがある。また、宗谷海峡から日本海に出て、利尻(りしり)、礼文(れぶん)島に延びることがある。3月なかばになると気温の上昇も目だち、氷盤は分裂、融解して、氷域は到来期と逆方向に縮小し、北海道沿岸では、だいたい4月上旬にはみられなくなり、オホーツク海北部も6月なかばには消滅する。しかし、氷域の変化の速さや氷量は年によって異なる。北海道周辺は本格的な流氷がみられる世界でもっとも緯度の低い海域である。
流氷による海難事故としては、日本では1970年(昭和45)3月17日の択捉(えとろふ)島、単冠(ひとかっぷ)湾における集団遭難(流氷襲来、8隻沈没座礁、30人死亡・行方不明)が最大である。
[赤川正臣]
『菊地慶一著『白いオホーツク――流氷の海の記録』(1973・創映出版)』▽『田畑忠司著『北海道の自然7 流氷』(1978・北海道新聞社)』▽『菊地慶一・山崎猛著『流氷の世界』(1982・岩崎書店)』▽『新妻昭夫・石井英二・NHK釧路放送局取材班著『流氷が連れてきた動物たち』(1987・日本放送出版協会)』▽『菊地慶一著『オホーツク流氷物語』(1987・共同文化社)』▽『青田昌秋編『オホーツク海と流氷』(1989・北方圏国際シンポジウム「オホーツク海と流氷」実行委員会)』▽『オホーツク流氷研究会編・刊『オホーツク海の流氷と人間生活とのかかわりに関する研究』(1989)』▽『中村圭三著『流氷の来る街』(1992・古今書院)』▽『青田昌秋著『白い海、凍る海――オホーツク海のふしぎ』(1993・東海大学出版会)』▽『小疇尚・福田正己・石城謙吉・酒井昭・佐久間敏雄ほか編『日本の自然 地域編1 北海道』(1994・岩波書店)』▽『水文・水資源学会編集出版委員会編『積雪寒冷地の水文・水資源』(1998・信山社サイテック、大学図書発売)』▽『菊地慶一著『ドキュメント流氷くる!』(2000・共同文化社)』▽『菊地慶一著『オホーツク氷岬紀行――流氷の海と58の灯台』(2001・共同文化社)』
岸から離れて漂っている海氷。これに対して陸続きに接岸して動かない海氷を定着氷fast iceという。定着氷は沿岸域に限られるから,世界の海の面積の1割に及ぶ海氷域の大半は,流氷で占められている。流氷は風や海流の力を受けて海面を漂流するが,動き始めると氷盤どうしの衝突力やコリオリの力などが加わる。海流が強くない海域での流氷の動きを平均的にみると,風速のおよそ1/50の速さで風下から約30度右(南半球では左)に偏って流れ,天気図の等圧線にほぼ沿って流れることが知られている。オホーツク海の北海道沿岸では,岸の影響も加わって流氷の動きは複雑である。サハリンの東を南下してきた流氷が海岸からの視界内に初めて現れた日を流氷初日,視界内に流氷が見られた最後の日を流氷終日,その間の日数を流氷期間という。オホーツク海岸の紋別(もんべつ)や網走での流氷初日は例年1月中旬,流氷終日は紋別で4月上旬,網走で4月中旬であるが,年による違いが大きく,流氷初日には1ヵ月,流氷終日には2ヵ月ほどの幅がある。沿岸に水路ができ,流氷面積が視界の半分以下になり,その後多少増加しても長続きせずにそのまま流氷終日を迎える状態になる最初の日を海明け(うみあけ)と呼んでいる。流氷期間中でも流氷は風向によって接岸と離岸とを繰り返す。流氷は速いときには時速2~3kmの動きを見せるから,一夜にして青海原が一面の流氷原に変わっていたり,見渡す限りの流氷原が一晩の風で視界から姿を消していたりする。1970年3月17日,しけを避けるためにエトロフ島ヒトカップ湾に集まっていた漁船のうちの8隻が流氷に襲われて沈没するという海難が起こった。流氷の分布や動向を知るために,航空機観測や人工衛星情報の収集が行われている。北海道のオホーツク海岸の沖合50kmくらいまでの流氷状況は,北海道大学の流氷レーダーで昼夜にかかわらず継続して観測されている。
→海氷
執筆者:小野 延雄
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(饒村曜 和歌山気象台長 / 宮澤清治 NHK放送用語委員会専門委員 / 2007年)
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…北極海の氷丘は厚さが40mにも達する。岸と陸続きになって動かない海氷を定着氷fast ice,岸から離れて動き得る海氷を流氷(パックアイスpack ice)という。流氷【小野 延雄】。…
…北極海の氷丘は厚さが40mにも達する。岸と陸続きになって動かない海氷を定着氷fast ice,岸から離れて動き得る海氷を流氷(パックアイスpack ice)という。流氷【小野 延雄】。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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