フランスの映画俳優。ミュージック・ホール芸人の子としてパリ郊外のメリエルに生まれ,19歳のとき父にすすめられてショービジネスの世界に入る。フォーリー・ベルジェールのダンサーとなり,ミュージック・ホールやオペレッタに出演したのち,しばらくムーラン・ルージュでミスタンゲットの相手役をつとめる。1930年,映画にデビューし,G.W.パプストの《上から下まで》(1933),ジュリアン・デュビビエの《白き処女地》(1934)で頭角をあらわし,続くデュビビエの《地の果てを行く》(1935),《我等の仲間》《望郷》(ともに1936),ジャン・ルノアールの《どん底》(1936),《大いなる幻影》(1937),マルセル・カルネの《霧の波止場》(1938)など30年代フランス映画の代表的な作品で多彩なヒーロー,あるいはアンチヒーローを演じた。〈ハンサム型〉ではない〈男性的な〉スターとして国際的な人気を呼ぶ。第2次世界大戦中,ハリウッドへのがれて2本の凡作に出演したのち自由フランス海軍に加わり,戦功十字章を与えられる。戦後はしばしば引退をうわさされたが,《港のマリー》(1949),《現金に手を出すな》(1953),《ヘッドライト》(1955)その他で悲哀のにじむ中年男を演じた。63年,フェルナンデルと共同で〈ギャフェル・フィルムズ〉を設立。《シシリアン》(1969),《暗黒街のふたり》(1973)などでアラン・ドロンを引き立たせた。《歳月L'année》(1976)が最後の作品。脚本の要求するイメージにこたえた〈スター〉として,アンドレ・バザンが高く評価した俳優である。1954年にレジオン・ドヌール勲章を授与された。
執筆者:柏倉 昌美
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フランスの映画俳優。パリ郊外メリエルに生まれる。種々の職業を経て、シャンソン歌手としてミュージック・ホールやオペレッタに出演し、トーキー到来とともに映画界に入った。ジョセフィン・ベーカーの相手役などを経て、1930年代にはデュビビエ監督の『地の果てを行く』『我等(われら)の仲間』『望郷』、ジャン・ルノワール監督の『どん底』『大いなる幻影』などの名作に出演し、フランスを代表するスターとなった。1950年以降は『現金(げんなま)に手を出すな』(1954)、『ヘッドライト』(1956)、『可愛(かわい)い悪魔』(1958)、『地下室のメロディー』(1963)、『シシリアン』(1969)、『暗黒街のふたり』(1973)などの諸作に年輪の重みを感じさせる円熟した演技を示した。1954年にレジオン・ドヌール勲章を授与された。
[畑 暉男]
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…第2次世界大戦の間はアメリカ将兵を慰問してまわり,またドイツ語で反ナチスの宣伝放送をし,〈自由勲章〉を贈られ,フランス政府からはレジオン・ドヌール勲章を贈られた。一時,ジャン・ギャバンと結婚(2人で共演したフランス映画《狂恋》(1945)がある),50年代に女優としての人気が衰えてからは,世界各地で特徴あるハスキーな声のエンタテイナーとして活躍した。アメリカ女性の流行になったスラックスは,ディートリヒが全盛期に先鞭をつけたものといわれる。…
…とくに日本では圧倒的な人気と高い評価で,《にんじん》(1932),《白き処女地》(1934),《地の果てを行く》(1935),《我等の仲間》(1936),《望郷》《舞踏会の手帖》(ともに1937),《旅路の果て》(1939)などはフランス映画の珠玉の名作として多くの人々に記憶されている。 第2次世界大戦中はアメリカに渡って,オムニバス映画の傑作として知られる《運命の饗宴》(1942)などをつくり,戦後ヨーロッパにもどってフランス,イギリス,ドイツで監督をつづけたが,フランス・イタリア合作の《陽気なドン・カミロ》(1952)で面目を保ったにすぎず,とくに〈ヌーベル・バーグ〉以後は,戦後社会の時代の流れに取り残された〈職人作家〉とみなされるに至り,かつての成功作はシャルル・スパーク(1903‐75)やアンリ・ジャンソン(1900‐70)のシナリオの力によるものであり,デュビビエの最大の功績はジャン・ギャバンのスターとしてのイメージをつくりだしたことであるという程度に片づけられてしまっているほどフランスでは評価が低い。【柏倉 昌美】。…
…《地の果てを行く》(1935),《我等の仲間》(1936)につづくジュリアン・デュビビエ監督作品。パリ警察の元警部の小説をもとにしてアンリ・ジャンソンが脚本を書き,ジャン・ギャバンが主演したデュビビエの代表作の一つ。日本ではとくに人気の高い作品である。…
※「ギャバン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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