どん底(読み)どんぞこ(英語表記)На дне/Na dne

精選版 日本国語大辞典 「どん底」の意味・読み・例文・類語

どん‐ぞこ【どん底】

[1] 〘名〙 (「どん」は接頭語)
① 最も底。一番の底。
② 最悪の状態。
※雑俳・手ひきぐさ(1824)「瀬戸を越へどん底に居る前頭」
③ 物事の極致、本質
洒落本跖婦人伝(1753)「一旦豁然(くつぜん)として色道の団底(ドンゾコ)をうちぬきたり」
[2] (どん底) (原題Na dnje) 戯曲。四幕。ゴーリキー作。一九〇二年モスクワ芸術座初演。帝政ロシア時代の木賃宿にうごめく、社会の下層部の人々の生活を通して、人間の尊厳と幸福という根本的な問題を提起した。日本では明治四三年(一九一〇)自由劇場が「夜の宿」の題名で有楽座で初演。

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デジタル大辞泉 「どん底」の意味・読み・例文・類語

どん‐ぞこ【どん底】

いちばん下の底。また、物事の最悪・最低の状態。「貧乏のどん底
[類語]そこ底部地底海底湖底川底水底みなそこ奈落の底

どんぞこ【どん底】[戯曲]

《原題、〈ロシア〉Na dneゴーリキーの戯曲。4幕。1902年初演。木賃宿を舞台に、社会の底辺に生きる人々の姿を描いたもの。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「どん底」の意味・わかりやすい解説

どん底
どんぞこ
На дне/Na dne

ロシア・ソ連の作家ゴーリキーの四幕戯曲。1900年に発想、1902年脱稿、同年12月モスクワ芸術座初演。強欲な軍人あがりの男が経営する木賃宿に寝泊まりする零落者たち――自称男爵、泥棒、売春婦、役者くずれ、錠前屋(じょうまえや)夫婦らの希望のない生きざまがまず示され、そこへいわくありげな過去をもつ巡礼ルカーが現れ、ひとりひとりに「慰め」の説教をする。売春婦の嘘(うそ)の恋物語の聞き手になってやり、死にかけている錠前屋の女房アンナを「死は安息だよ」と慰め、アル中の役者くずれには「無料療養所がある」と更生を勧め、泥棒ペーペルには「シベリアだって極楽さ」と慰め、いつの間にか姿を消してしまう。しかし彼の慰めはむなしく、役者は首を吊(つ)り、アンナは死に、売春婦は行方不明、泥棒は木賃宿の主人を殺してシベリア送りとなる。飲んだくれのサーチンだけが慰めを否定し「人間、こいつは、なんて豪勢な響きだ!」と叫ぶ。劇のテーマは「真実がいいか、同情がいいかを提起することだ」(作者のことば)。全体に暗鬱(あんうつ)な劇だが、台詞(せりふ)が生き生きとして迫力がある。日本ではモスクワ芸術座の演出を模した小山内薫(おさないかおる)の演出(1910、1924)で一定の型ができ、新劇の重要レパートリーの一つとなっている。

[佐藤清郎]

『神西清訳『どん底』(『グリーン版世界文学全集Ⅰ 37』所収・1962・河出書房新社)』『中村白葉訳『どん底』(岩波文庫)』

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改訂新版 世界大百科事典 「どん底」の意味・わかりやすい解説

どん底 (どんぞこ)
Na dne

ロシアの作家ゴーリキー作の4幕の戯曲。1902年10月モスクワ芸術座によって上演され大成功を博し,続いてベルリンをはじめヨーロッパ各地で翻訳上演され,ゴーリキーの名は世界中に知られるようになった。〈かつて人間であった人々〉,元旅役者,元男爵,泥棒,浮浪者など社会の下層の人間たちが住みついている簡易宿泊所が舞台である。ここに姿を現した巡礼ルカーは,生きる希望もない零落した人々に同情し,ひとりひとりに安らぎの言葉を与え,救済の幻影で慰める。若々しい希望を実らせるかに見えた泥棒ペーペルと非道な経営者の妻の妹ナターシャとの愛は破滅し,ルカーが去った後,一同はまたもとの虚脱におちいる。浮浪者サーチンがルカーの慰めの偽りを暴いて,真実を直視する勇気と人間の尊厳を説くが,彼とてもこのどん底の生活から脱け出すあてはない。1936年,フランスで映画化(監督J. ルノアール)されたほか日本においては1910年小山内薫の自由劇場が《夜の宿》と題して上演して以来,新劇の最も人気のある出しものの一つとなった。黒沢明の映画《どん底》(1957)も,ゴーリキーの原作を翻案した作品である。
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百科事典マイペディア 「どん底」の意味・わかりやすい解説

どん底【どんぞこ】

ゴーリキーの戯曲。《Na dne》。4幕。1902年初演。人生のどん底にもたとえられる簡易宿泊所を舞台に,泥棒,元男爵,アル中の役者,売春婦らが織りなす人間模様の中に,慰めの幻影をふりまく老巡礼ルカーと浮浪者サーチンの抵抗の哲学を対置し,作者の人生哲学を訴える。日本では1910年小山内薫訳《夜の宿》として初演。映画では黒澤明による翻案《どん底》(1957年)がある。
→関連項目宇野重吉村山知義

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「どん底」の意味・わかりやすい解説

どん底
どんぞこ
Na dne

ロシアの作家 M.ゴーリキーの戯曲。4幕。 1902年作。帝制末期のモスクワの木賃宿に住むどん底の人々の生活を描く。 02年モスクワ芸術座が初演。しかし,これは検閲で削除されたテキストによるもので,完全上演は革命後の 28年。モスクワ芸術座の代表的レパートリーの一つ。日本では 10年に小山内 (おさない) 薫の演出により『夜の宿』の題で上演された。

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デジタル大辞泉プラス 「どん底」の解説

どん底〔日本映画〕

1957年公開の日本映画。監督・脚本:黒澤明、脚本:小国英雄、美術:村木与四郎。出演:中村鴈治郎、山田五十鈴、香川京子、上田吉二郎、三船敏郎、東野英治郎、三井弘次ほか。ゴーリキーの同名戯曲の舞台を江戸時代の棟割り長屋に置き換えた作品。第12回毎日映画コンクール美術賞受賞。第12回毎日映画コンクール男優主演賞(三船敏郎)、第12回毎日映画コンクール男優助演賞(三井弘次)ほか受賞。

どん底〔フランス映画〕

1936年製作のフランス映画。原題《Les bas-fonds》。ゴーリキーの同名戯曲の映画化。監督:ジャン・ルノワール、出演:ジャン・ギャバン、ルイ・ジューベ、シュジー・プリムほか。

どん底〔曲名〕

日本のポピュラー音楽。歌は女性歌手、門倉有希。1996年発売。作詞:荒木とよひさ、作曲:浜圭介。

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旺文社世界史事典 三訂版 「どん底」の解説

どん底
どんぞこ
Na Dne

ロシアの小説家ゴーリキーの代表的戯曲
1902年初上演。社会の最下層にうごめく人間の姿を描き,ゴーリキーの名を世界に広めた作品。

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世界大百科事典(旧版)内のどん底の言及

【ゴーリキー】より

…チェーホフやコロレンコはこれに抗議して会員を辞任した。この年,戯曲《どん底》を発表,その上演を通して文名を内外に高めた。05年の革命に積極的に参加,逮捕されるが,国の内外の激しい抗議でまもなく釈放された。…

※「どん底」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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