日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベッケル」の意味・わかりやすい解説
ベッケル(フランスの映画監督)
べっける
Jacque Becker
(1906―1960)
フランスの映画監督。1940年代から1950年代にかけて活躍した。職人肌の緻密(ちみつ)な映画づくりはヌーベル・バーグの先駆け的存在となった。セザンヌ家と親交のあった家庭に生まれ、その縁でジャン・ルノワールと知り合い、『素晴らしき放浪者』(1932)から『ラ・マルセイエーズ』(1938)まで助監督を務めた。最初の監督長編作品『最後の切り札』(1942)がヒットしたため、ナチス・ドイツの占領下で『赤い手のグッピー』(1943)、『偽れる装い』(1945)を撮った。第二次世界大戦後は『幸福の設計』(1947)がカンヌ国際映画祭で恋愛心理映画賞グランプリを受賞し、その後はシモーヌ・シニョレSimone Signoret(1921―1985)が娼婦を演じる『肉体の冠』(1952)、ジャン・ギャバン主演のフィルム・ノワール(犯罪映画)『現金(げんなま)に手を出すな』(1954)などの傑作が続く。ジェラール・フィリップ主演でモジリアーニを描いた『モンパルナスの灯(ひ)』(1958)の後、脱獄映画『穴』(1960)の編集を終えたところで病死した。息子のジャン・ベッケルJean Becker(1933― )も映画監督。
[古賀 太]
資料 監督作品一覧(日本公開作)
最後の切り札 Dernier atout(1942)
赤い手のグッピー Goupi mains rouges(1943)
偽れる装い Falbalas(1945)
幸福の設計 Antoine et Antoinette(1947)
エドワールとキャロリーヌ Édouard et Caroline(1951)
肉体の冠 Casque d'or(1952)
エストラパード街 Rue de l'Estrapade(1953)
現金に手を出すな Touchez pas au grisbi(1954)
アラブの盗賊 Ali-Baba et les 40 volurs(1954)
怪盗ルパン Les adventures d'Arsène Lupin(1957)
モンパルナスの灯 Montparnasse 19(1958)
穴 Le Trou(1960)
ベッケル(スペインの詩人)
べっける
Gustavo Adolfo Bécquer
(1836―1870)
スペイン後期ロマン主義の詩人。セビーリャ生まれ。幼くして孤児となり、長じてマドリードに出て詩作に励む。彼の詩の源泉と思われる恋に破れ、また結婚にも挫折(ざせつ)し貧窮のうちに夭折(ようせつ)。死後、友人の手によってまとめられた作品がベッケル唯一の詩集『叙情詩集(リーマス)』(1871)である。詩人のひそかな告白ともいうべき詩句で綴(つづ)られ、愛の歓喜と苦悩、孤独、精神の空白、死の予感などが吐露されている。「天使の弾くアコーディオン」と称される繊細な感受性、伝統的な民衆詩に根ざした簡素な詩型と深い主観主義は、たとえばハイネの「ドイツ的ため息」とも異なる独自の世界を現出している。後世の詩人に与えた影響は大きく、スペイン近代詩はベッケルに始まるといっても過言ではない。ほかに伝説に題材を求めた幻想的短編集『伝説集』(1864)がある。これも第一級の詩的散文と評価され、詩と同様に広く親しまれている。
[有本紀明]
『荒井正道訳『抒情小曲集』(『世界名詩集大成14 南欧・南米』所収・1962・平凡社)』▽『神代修編『ベッケル・スペイン伝奇作品集』(1977・創土社)』