グリセリン(読み)ぐりせりん(英語表記)glycerin

デジタル大辞泉 「グリセリン」の意味・読み・例文・類語

グリセリン(glycerin/glycerine)

三価アルコールの一。無色で甘味を有し、吸湿性をもつ粘りけのある液体。油脂の構成成分。医薬・化粧品・爆薬原料などに利用。グリセロール

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精選版 日本国語大辞典 「グリセリン」の意味・読み・例文・類語

グリセリン

  1. 〘 名詞 〙 ( [ドイツ語] Glycerin [英語] glycerine ) 三価アルコールの一つ。化学式 C3H5(OH)3 脂肪または油脂を分解して製せられ、甘く、粘り気のある無色透明の液体。摂氏零度で固化する。薬用、工業用、化粧品原料、爆薬原料など広く用いられる。〔薬品名彙(1873)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「グリセリン」の意味・わかりやすい解説

グリセリン
glycerine



1,2,3-プロパントリオール,グリセロールglycerolともいう。代表的な3価のアルコール。無色透明,粘度の高い,吸湿性の液体で,甘味がある。グリセリンの名はギリシア語のglykys(甘い)に由来する。油脂(脂肪酸グリセリド)の成分として広く自然界に存在する。1779年K.W.シェーレによってオリーブ油の加水分解産物中から発見された。融点17.9℃,沸点290℃(760mmHg),154℃(5mmHg)。比重d415=1.2644,屈折率n415=1.4758,表面張力62.08dyn/cm(30℃,濃度99.19%),粘度945センチポアズ(25℃)。水,エチルアルコールに易溶で任意の割合で混合するが,エーテルには微溶(500倍容のエチルアルコールに溶ける),炭化水素には不溶である。

油脂をケン化してセッケンを製造する際の廃液には15~20%のグリセリンが含まれており,これを濃縮,精製して製造される。また油脂をオートクレーブ中で高温で高圧水蒸気(たとえば223℃,25気圧)で加水分解して脂肪酸を製造する際の廃液からもグリセリンが得られる。近年は合成洗剤の出現によりセッケン生産が激減したため,油脂からのグリセリンは脂肪酸製造工程からのものが主流になっている。

 一方,石油系原料からの化学的合成法によってもグリセリンは製造されている。合成法はいずれもプロピレンを原料とするもので,代表的製造工程は次の4通りである。(1)プロピレンCH2=CH-CH3を500~530℃で塩素に結合させ塩化アリルCH2=CH-CH2Clとし,苛性ソーダを用い150℃,14kgf/cm2,pH2~10で加水分解してアリルアルコールCH2=CH-CH2OHとする。次に次亜塩素酸水HOClでクロロヒドリン化し,再びアルカリで加水分解してグリセリンとする。(2)上述の方法で得られる塩化アリルを次亜塩素酸水でクロロヒドリン化し,石灰乳で60℃以下で脱塩酸してエピクロロヒドリンとする。水蒸気蒸留,脱水,分留などによりエピクロロヒドリンの濃度を高め,次に加水分解してグリセリンを得る。(3)プロピレンを酸化銅を触媒として350℃,2.6kgf/cm2で気相酸化し,アクロレインCH2=CH-CHOとする。これに酸化マグネシウムなどの触媒を用いてイソプロピルアルコールを作用させ,アリルアルコールとアセトンをつくり,さらに触媒を用いて過酸化水素を作用させグリセリンとする。(4)プロピレンを酸化して酸化プロピレンとし,これをリン酸リチウム触媒によりアリルアルコールに変え,過酢酸によってグリシドールとし,アルカリで加水分解してグリセリンを得る。以上の各法で得られるグリセリンはいずれも水溶液であり,濃縮,精製などを行って製品とする。

縮合系の合成樹脂(アルキド樹脂エポキシ樹脂),セロハンなどの原料,乳化剤モノグリセリドの原料,あるいはニトログリセリンとしてダイナマイトの材料に用いられる。またタバコの乾燥防止剤,酸素コンプレッサー用の潤滑油ベース,化粧品用としてローション,クリーム,食用として香料,着色料などの溶剤,医薬品などにも用いられる。
執筆者:

グリセリンは生体内に脂質の骨格成分として大量に存在する。すなわちグリセリンの3個の水酸基と脂肪酸がエステル結合し脂質を生成している。酵素リパーゼ中性脂肪を分解してグリセリンと脂肪酸を生成するが,飢餓状態などにおいては,このようにして生成したグリセリンが血糖量維持のための重要な供給源となる。グリセリンは,ブドウ糖とともに,ATPからのリン酸受容体として生体エネルギー代謝において重要な役割を果たす。グリセロールキナーゼの作用によりリン酸化され,L-グリセロール-3-リン酸が生成する。この物質は,生体膜成分として重要なリン脂質の骨格となる。また,さらに代謝されて解糖系に入りうる。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「グリセリン」の意味・わかりやすい解説

グリセリン
ぐりせりん
glycerin

別名グリセロール。無色透明の粘性の液で、においはなく、甘い。日本薬局方にはグリセリンと濃グリセリンが収載されている。50%水溶液が便秘の治療に浣腸(かんちょう)用として用いられるほか、坐薬(ざやく)の基剤中に配合される。保湿性、粘滑性を有するので、皮膚や粘膜の保護、軟化の目的で軟膏(なんこう)、クリーム、化粧水など塗布剤の原料として繁用されている。また注射用として脳浮腫(ふしゅ)の治療、眼圧、脳脊髄(せきずい)圧を下げるのに点滴静脈注射として用いられる。日本薬局方製剤には、皮膚のひび、あかぎれなどにあれ止めとして用いられるグリセリンカリ液、殺菌・消毒剤として塗布する複方ヨード・グリセリン、歯科用ヨード・グリセリンのほか、フェノール・亜鉛華リニメント、歯科用トリオジンクパスタに配合されている。

[幸保文治]

『エリック・ユンガーマン、ノーマン・O・V・ソンタグ編、中野善郎監訳『グリセリンの科学 香粧品のかぎを握る』(1995・フレグランスジャーナル社)』『黒崎富裕・八木和久著『油脂化学入門――基礎から応用まで』(1995・産業図書)』

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化学辞典 第2版 「グリセリン」の解説

グリセリン
グリセリン
glycerol, glycerin

C3H8O3(92.10).グリセロール,1,2,3-プロパントリオール,1,2,3-トリヒドロキシプロパン(1,2,3-trihydroxypropane)ともいう.脂肪族多価アルコール類の一つ.脂肪酸とエステル結合をつくり,油脂,脂質などの形で動・植物中に存在する.プロペンを出発原料として,塩化アリルアリルアルコールを経て合成される.油脂の分解,せっけん製造の際の副産物,発酵法によっても製造されている.甘味のある無色,無臭の粘ちゅうな液体.融点20 ℃,沸点290 ℃(分解).1.26414.1.4730.エタノール,水に易溶,ベンゼン,石油エーテルに不溶.アルキド樹脂用にもっとも多く用いられ,爆薬,化粧品などの製造原料,潤滑剤,医薬用にも用いられる.[CAS 56-81-5]

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百科事典マイペディア 「グリセリン」の意味・わかりやすい解説

グリセリン

1,2,3−プロパントリオール,グリセロールとも。代表的な3価のアルコール。融点17.8℃,沸点290℃(分解)。無色で粘度・吸湿性が高く,甘味がある。水,エタノールに易溶。油脂成分として天然に広く存在。油脂のケン(鹸)化の副成品として得られるが,プロピレンと塩素から得られるプロピレンクロルヒドリンの加水分解による方法,発酵法などで作られる。ニトログリセリンアルキド樹脂,印刷インキ原料,タバコなどの防湿剤,医薬品,化粧品原料などに使用。
→関連項目不凍液

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「グリセリン」の意味・わかりやすい解説

グリセリン
glycerin

トリオキシプロパン,グリセロール,リスリンともいう。化学式 CH2(OH)CH(OH)CH2OH 。三価アルコールで,脂肪酸とエステルを形成した形で,石鹸製造の際の副産物である廃液から製造されていたが,近年,プロピレンの塩素化によって得られる塩化アリルからアリルアルコール,グリセリンモノクロロヒドリンを経て安価に製造されるようになった。甘味のある無色粘稠な液体。吸湿性,融点 20℃,沸点 290℃ (分解) 。水,エチルアルコールに溶ける。エーテルに難溶,ベンゼンに不溶。塩素酸カリウムのような強酸化剤と反応して爆発する。ニトログリセリン (爆薬) の製造原料。医薬品として浣腸剤に,湿潤剤,粘滑剤として皮膚に外用する。たばこや化粧品の添加剤,グリプタル樹脂原料などに広く使われる。

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栄養・生化学辞典 「グリセリン」の解説

グリセリン

 →グルセロール

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