共沸混合物(読み)きょうふつこんごうぶつ(英語表記)azeotrope
azeotropic mixture

改訂新版 世界大百科事典 「共沸混合物」の意味・わかりやすい解説

共沸混合物 (きょうふつこんごうぶつ)
azeotrope
azeotropic mixture

一般に二成分液体平衡状態にある蒸気組成は,液体の組成と異なるのが普通である。蒸留によって溶液をその成分に分離できるのはこの事実に基づいている。一般に,溶液を蒸留するとその蒸気組成は元の組成よりずれて一方の成分に富むようになるので,溶液の組成はしだいに他成分のほうにずれ,それに応じて沸点も連続的に変化していく。しかし,特定の組成をもったある種の溶液では蒸気の組成と溶液の組成とが同じになり,組成変化することなく一定温度共沸点という)で沸騰し,あたかも純粋液体のごとく振る舞う。この現象共沸azeotropy(ギリシア語の〈沸点を変えない〉に由来)と呼び,その組成の溶液を共沸混合物アゼオトロープ)という。この際,共沸がその系の最も低い沸点で起こるか,最も高い沸点で起こるかの2通りの場合が存在し,前者は最低(沸点)共沸混合物,後者は最高(沸点)共沸混合物と呼ばれる。たとえば水(沸点100℃)-クロロホルム(同61.2℃)の系では,水2.8重量%の組成のものが1気圧下56.1℃で共沸するが,これは前者に相当する。塩化水素(沸点-80℃)-水の系では,水79.778重量%の組成のものが108.6℃で共沸し,これは後者の例である。成分液体の分子の間の相互作用が強くて大きな混合熱を示す系にしばしば見られる現象である。共沸現象を示す系では当然,通常の蒸留によっては成分の分離ができない。発酵で作られたアルコールを蒸留しても純粋アルコールが得られないのはこのためである。このような系では第三成分を加えたり(共沸蒸留抽出蒸留),外圧を変化させるなどの方法によって精製する方法がとられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「共沸混合物」の意味・わかりやすい解説

共沸混合物
きょうふつこんごうぶつ
eutectic mixture

混合溶液を蒸留するとき、ある一定の圧力もとで一定の温度で溶液の組成と蒸気の組成が一致することがあり、この現象を共沸またはアゼオトロープazeotropeといい、また、この一定組成の溶液を共沸混合物という。この組成は圧力によって変化するから、それが純粋な物質でないことがわかる。たとえば、水‐塩化水素系では1気圧のもとで共沸点は108.584℃、塩化水素20.222%であるが、水銀柱600ミリメートルでは102.21℃、塩化水素20.683%である。

 二成分系で沸点図を調べてみると、組成に対して沸点が極大または極小値を示す。この極大または極小の組成をもつ溶液を蒸留で分け続けるとき、最終的には液体側または留出側がそれぞれ共沸混合物になるため、各成分を蒸留で分けることは不可能になる。

 したがって共沸混合物の分離には、吸収、抽出、吸着などほかの操作を用いるが、共沸混合物にほかの溶剤を加えて蒸留を可能にすることもあり、これを共沸蒸留という。たとえばエタノール(エチルアルコール)と水は共沸混合物の関係にあるが、これにベンゼンを加え三成分系にする。

 この三成分共沸混合物を蒸留させると液体側が純エタノールになる。工業的にはこの方法により初めて純エタノールが得られるようになった。

[吉田俊久]

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化学辞典 第2版 「共沸混合物」の解説

共沸混合物
キョウフツコンゴウブツ
azeotrope, azeotropic mixture

混合溶液において,液相の組成と,それと平衡にある気相の組成が等しいとき,この溶液は共沸状態にあるといい,その溶液を共沸混合物,その組成を共沸組成,そのときの平衡温度を共沸温度または共沸点という.共沸混合物を加熱するとき,この溶液は組成を変えずに温度が上昇して沸騰する.この現象を共沸という.共沸組成および共沸点は,圧力によって変化する.共沸混合物の沸点,すなわち,共沸温度は組成と沸点との関係を示す沸点曲線上で,図に示すように極小値または極大値を示し,極小値の場合を最低共沸混合物,極大値の場合を最高共沸混合物という.共沸混合物は通常の蒸留では各成分に分離できない.[別用語参照]共沸蒸留

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百科事典マイペディア 「共沸混合物」の意味・わかりやすい解説

共沸混合物【きょうふつこんごうぶつ】

共沸状態にある溶液。たとえば1気圧のもとでは,エチルアルコールの95.6%水溶液(共沸点78.15℃),塩化水素の20.2%水溶液(共沸点108.6℃)など。前者の共沸点は最低(極小)沸点,後者は最高(極大)沸点の例。こうした混合物は,そのままでは蒸留によって分離できない。分離するためには,第三の物質を加えて蒸留する。→共沸蒸留
→関連項目抽出蒸留

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「共沸混合物」の意味・わかりやすい解説

共沸混合物
きょうふつこんごうぶつ
azeotrope; azeotropic mixture

2成分以上の混合液に平衡な蒸気の組成が液の組成と等しいとき,その液を共沸混合物という。共沸混合物には,水-エチルアルコール (重量%比 4.43:95.57,共沸点 78.15℃) ,酢酸エチル-エチルアルコール (69:31,78.15℃) ,ベンゼン-ノルマルヘキサン (19:81,68.9℃) ,エチルアルコール-ベンゼン-水 (22.8:53.9:23.3,64.9℃) ,エチルアルコール-トリクロロエチレン-水 (41.2:38.4:20.4,44.4℃) などがある。

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栄養・生化学辞典 「共沸混合物」の解説

共沸混合物

 →アゼオトロープ

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