クッシング症候群(読み)くっしんぐしょうこうぐん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クッシング症候群」の意味・わかりやすい解説

クッシング症候群
くっしんぐしょうこうぐん

副腎(ふくじん)皮質ホルモンの一種コルチゾール(ハイドロコルチゾン)の慢性過剰症をいう。1932年にアメリカの脳神経外科医クッシングが初めて報告した。彼はこの疾患で、下垂体前葉の好塩基細胞性腺腫(せんしゅ)と両側副腎皮質の肥大増殖があることを認め、原因は下垂体にあると考えた。しかしその後に、副腎皮質の腺腫や癌(がん)によっても同様な臨床像が出現することが認められ、一括してクッシング症候群とよばれるようになった。前述のほか、肺や胸腺膵臓(すいぞう)の癌が副腎皮質刺激ホルモンACTH)を産出して同じような病態を呈することがあるが、非常にまれである。普通は下垂体に腫瘍(しゅよう)があり、両側の副腎皮質過形成がみられる場合が多く、副腎腫瘍など、ほかの病因による場合と区別して、この下垂体に原発するものをクッシング病とよんでいる。比較的まれな疾患であるが、20~30歳代の女性に多い。

 クッシング症候群のおもな症状は高血圧や高血糖をはじめ、満月様顔貌(がんぼう)(顔が丸くなる)、頸(けい)部や躯幹(くかん)の脂肪異常沈着(胴が太り、背中の上方の首の付け根に水牛のように脂肪がたまる)、皮膚線条(急に太って皮膚が裂け、赤紫色の筋(すじ)が下腹部などにみられる)、無月経、多毛症、骨多孔症、筋力低下、性欲減退、皮膚の出血傾向などである。

 臨床検査では血液中のコルチゾールの高値をはじめ、好酸球数の減少、血糖値の上昇がみられる。副腎腫瘍の発見には、腹部CT(コンピュータ断層撮影)、アイソトープを用いる副腎スキャンなどの検査があり、下垂体腫瘍の場合は、頭部のMRI(磁気共鳴映像法)撮影によって径5ミリメートルの微小腺腫まで発見できる。治療は下垂体あるいは副腎にできた腺腫を手術によって摘出する。今日では副腎や下垂体の腺腫の摘出術は開腹や開頭することなく、内視鏡で手術ができるので予後もよい。放射線療法も行われる。

[高野加寿恵]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クッシング症候群」の意味・わかりやすい解説

クッシング症候群
クッシングしょうこうぐん
Cushing's syndrome

1932年に H.クッシングは下垂体の好塩基性腺腫による症候群と報告したが,その後,副腎皮質ホルモンの過剰分泌によることが判明した。下垂体好塩基性腺腫のほか,副腎過形成や副腎皮質腫瘍,異所性 ACTH産生腫瘍 (肺癌膵癌胸腺癌など) によっても起る。症状は肥満,皮膚の紫がかった線,多毛症,性機能低下,骨粗鬆症,筋肉の萎縮・脱力,高血圧,過血糖,食欲亢進など多様である。 30~40歳代の女性に多い。

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