副腎皮質から分泌されているコルチゾールの慢性の過剰状態が続いた場合に発症する疾患。脳下垂体腺腫から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が過剰に分泌される結果,副腎皮質からのコルチゾール分泌が増加するもの(クッシング病。アメリカのH. カッシング(1869-1939)が初めて報告),副腎皮質に発生した腫瘍からコルチゾールが過剰に分泌されるもの,脳下垂体以外の腫瘍からACTHが分泌される結果,副腎からのコルチゾール分泌が増加するもの(異所性ACTH症候群)などの病型がある。
満月様顔貌,中心性肥満(体幹のみの肥満),皮膚線条,高血圧,骨粗鬆(そしよう)症,月経異常,多毛,低カリウム血症,耐糖能低下などの症状を呈する。血漿コルチゾール値,尿中17-OHCS値,17-KGS値の上昇により診断する。各病型の鑑別は,デキサメサゾンを用いた抑制試験による。まず,デキサメサゾン2mg/日の投与を2日間行い,尿中17-OHCSの著しい抑制が認められれば,本症の診断は除外される。抑制が認められない場合にはクッシング症候群であり,さらに8mg/日の投与を2日間行い,抑制が認められればクッシング病,抑制が認められない場合には副腎腫瘍によるものか,異所性ACTH症候群であり,前者では血漿ACTH低値,後者では血漿ACTH高値であることから両者を鑑別する。
治療法としては,クッシング病に対しては経蝶形骨洞腺腫摘出術,脳下垂体に対する放射線照射,副腎腫瘍に対しては外科的摘除,異所性ACTH症候群に対してはACTH産生腫瘍の摘除などを行う。内科的にコルチゾールの過剰分泌を抑制する方法としては,o,p′-DDDの投与がある。
執筆者:関原 久彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
副腎(ふくじん)皮質ホルモンの一種コルチゾール(ハイドロコルチゾン)の慢性過剰症をいう。1932年にアメリカの脳神経外科医クッシングが初めて報告した。彼はこの疾患で、下垂体前葉の好塩基細胞性腺腫(せんしゅ)と両側の副腎皮質の肥大増殖があることを認め、原因は下垂体にあると考えた。しかしその後に、副腎皮質の腺腫や癌(がん)によっても同様な臨床像が出現することが認められ、一括してクッシング症候群とよばれるようになった。前述のほか、肺や胸腺、膵臓(すいぞう)の癌が副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を産出して同じような病態を呈することがあるが、非常にまれである。普通は下垂体に腫瘍(しゅよう)があり、両側の副腎皮質過形成がみられる場合が多く、副腎腫瘍など、ほかの病因による場合と区別して、この下垂体に原発するものをクッシング病とよんでいる。比較的まれな疾患であるが、20~30歳代の女性に多い。
クッシング症候群のおもな症状は高血圧や高血糖をはじめ、満月様顔貌(がんぼう)(顔が丸くなる)、頸(けい)部や躯幹(くかん)の脂肪異常沈着(胴が太り、背中の上方の首の付け根に水牛のように脂肪がたまる)、皮膚線条(急に太って皮膚が裂け、赤紫色の筋(すじ)が下腹部などにみられる)、無月経、多毛症、骨多孔症、筋力低下、性欲減退、皮膚の出血傾向などである。
臨床検査では血液中のコルチゾールの高値をはじめ、好酸球数の減少、血糖値の上昇がみられる。副腎腫瘍の発見には、腹部CT(コンピュータ断層撮影)、アイソトープを用いる副腎スキャンなどの検査があり、下垂体腫瘍の場合は、頭部のMRI(磁気共鳴映像法)撮影によって径5ミリメートルの微小腺腫まで発見できる。治療は下垂体あるいは副腎にできた腺腫を手術によって摘出する。今日では副腎や下垂体の腺腫の摘出術は開腹や開頭することなく、内視鏡で手術ができるので予後もよい。放射線療法も行われる。
[高野加寿恵]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…アルドステロンもACTHの支配下にあるが,アンギオテンシンIIやカリウムによっても,分泌が刺激される。脳下垂体腺腫からのACTH過剰分泌の結果,副腎からのコルチゾール分泌が増加したり,副腎に生じた腺腫から多量のコルチゾールが慢性的に分泌されると,クッシング症候群を呈する。また,副腎結核や特発性副腎皮質萎縮により,副腎からのコルチゾールの分泌が低下するとアディソン病となる。…
※「クッシング症候群」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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