クナ(英語表記)Cuna

改訂新版 世界大百科事典 「クナ」の意味・わかりやすい解説

クナ
Cuna

パナマインディオ。人口3万0580(1972)。大陸部とサン・ブラス諸島に住むものとに二分される。大陸部では太平洋岸にそそぐ川の上流,パナマ東部の丘陵地,アトラト川下流域,ウラバー湾の東部海岸に分布する。サン・ブラス諸島のクナはサン・ブラス湾とティブロン岬の間のカリブ海側の島々に住んでいる。征服期以降居住領域は徐々に縮小し,現在に至っている。1540年頃からヨーロッパ人や黒人との接触が始まり,奴隷にされる者が増え,川の上流へと逃れていった。17,18世紀には英仏の海賊の拠点が近くに置かれ,若干の接触があった。1790年にはスペインと条約がかわされ,クナの平和的共存が約された。そして,1821年ヌエバ・グラナダ副王庁(当時,副王はパナマにいた)はクナの独立を承認した。17~19世紀には宣教活動はみられなかったが,1907年にはカトリックプロテスタント宣教師がサン・ブラスに入り,布教・教育活動をはじめ,以降,パナマとコロン両市で若干のクナが学ぶようになった。1925年サン・ブラスの一派が革命を起こし,独立を企てた。この事件以降,すでに1915年に設定されていた居留地境界と法規が明確化された。パナマ政府は二つの島に役人を派遣しているが,サン・ブラスのクナは土地所有権と沿岸への権利を持ち,治外法権を確保している。

 親族組織は双系で,一夫一婦婚が一般的であるが,一夫多妻婚も許されている。大陸部とサン・ブラス諸島のクナの間の結婚は極めて少ない。結婚後は母方居住婚で,各同居家族は同一家族または一つの母系氏族に属する女に結婚を通じてつながる人々によって構成されている。年長の男子が同居家族のリーダーとなる。村長は村の男子より選出され,役職者を従え,聖歌や説教の知識を持ち儀礼をつかさどる。彼らの世界観によると,世界は8層の天界と8層の地下界から成り,多様な精霊や悪霊が住んでいるとされている。人間界と超自然界の交信をつかさどるのがシャーマンで3種類のシャーマンがいる。第1種は数多く,男女とも学習によってなることができ,聖歌,薬,木製の呪物,絵をかいて記憶を助ける方法等を駆使して治療する。第2種は数も少なく,呪物を使って村全体を襲う伝染病を治す。第3種は天与のシャーマンで男子に多く,悪霊と交信し,呪物を用いて極めて正確に病を祓う。シャーマンは出産時にも活躍し,安産を保証する。クナは昔は身体装飾を行っていたが,現在はサン・ブラスのクナだけが鼻梁に黒線を引く。身体装飾の伝統は彩色腰巻に受けつがれ,さらに女子の作るアップリケ刺繡のモーラに発展したと推測される。初期のモーラは赤と黒,オレンジと黒の2色かせいぜい3色のとり合せで模様も単純であったが,今は多色で図柄も多岐にわたり,テーマのあるのもあり,貴重な観光資源となっている。そのほかにも,工芸品として幾何学模様のついたバスケット,男子の作る木彫の呪物,シャーマンのかく絵などがある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「クナ」の意味・わかりやすい解説

クナ
くな
Cuna

パナマからコロンビアにかけて住む先住民集団。総人口は推定約3万8000人。チブチャ語系のクナ語を話す。大部分のクナの人々はカリブ海岸のサンブラス諸島の39の村に分かれて住み、少数の人々が、パナマ本土とコロンビアのカリブ海岸に住む。同諸島およびパナマ本土の一部は政府公認のクナ居留区となっている。村のリーダーが集まって開かれる会議がサンブラス諸島のクナの最高決定機関となっている。村はお互いに独立していて、それぞれが強いアイデンティティを保持している。集会所を中心として家屋が密集した村は、社会生活や娯楽のための場所であり、労働の場所である畑はすべて本土の密林の中にある。主要作物は焼畑耕作によるバナナ、ココナッツであり、密林の狩猟や海の漁労がそれを補完する。男たちは現金収入を求めてパナマや運河地帯に出稼ぎに行き、島を訪れるコロンビア人商人との交易も活発である。女性はモラとよばれる色鮮やかな上衣をつくる。モラの技法は、色の違う数枚の布を重ね、上部の布を模様にしたがって切り抜き下の色をみせる逆アップリケの手法を用いたもので、現在では有名な民芸品として現金収入源ともなっている。

[木村秀雄]


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世界大百科事典(旧版)内のクナの言及

【チブチャ】より

…語族内部の言語,文化,社会の変異は大きかった。現在でもこの地域には点々とチブチャ語系の少数孤立集団が残っている(パナマのクナ,コスタリカのグアイミ,ニカラグアのラマ,コロンビアのカヤパなど)。狭義には,チブチャは現在のコロンビアの首都ボゴタを中心に形成されていた大規模な首長国の統一体をさす。…

※「クナ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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