クラリネット(読み)くらりねっと(英語表記)clarinet 英語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クラリネット」の意味・わかりやすい解説

クラリネット
くらりねっと
clarinet 英語
Klarinette ドイツ語
clarinette フランス語
clarinetto イタリア語

シングルリード(単簧(たんこう))の木管楽器一種。他の木管楽器の多くが円錐(えんすい)管であるのに対し、円筒管で、閉管振動をするため偶数次倍音をもたないという音色上の特徴をもち、また広い音域を特徴とする。しかし、それが運指の複雑さにもつながっている。ただし、わずかに円錐状の管のものもある。シングルリードの管楽器は古代からあったとされるが、クラリネットの直接の前身は17世紀のシャリュモーchalumeauであるといわれている。その欠点(オーバーブローイングができず、音域が狭い)を解消するために、ドイツのデンナーJ. C. Dennerによって1700年ごろつくられたのがクラリネットである。クラリネットの名称は、中高音クラリーノ(小型のトランペット)に似ているところからつけられたといわれる。

 クラリネットには、ピッコロ・クラリネットからコントラバス・クラリネットまで多くの種類があるが、もっともよく用いられるのは、ソプラノ・クラリネットのB♭管とA管である。B♭管は全長約67センチメートル、内径約15ミリメートルで、D3~B♭6の4オクターブ弱の音域をもつ。A管はB♭管よりやや長めで、音域は半音低い。また、B♭管よりも1オクターブ低い音域のバス・クラリネットや4度高いE♭ソプラニーノ・クラリネットもしばしば用いられる。キー・システムでは24音孔、17鍵(けん)、6リングのいわゆるベーム式またはフランス型がもっとも一般化している。これは、1840年ごろオーギュスト・ビュッフェLouis-Auguste Buffetとヤサーント・クローゼHyacinthe Kloséが、ベーム式フルートのシステムを応用して開発したものである。また、すでに1810年ごろには、ミュラーI. Müllerによって、現在のドイツ型クラリネットの基礎となる13鍵の楽器がつくられていた。ベーム式はキー・システムが合理的で運指に有利であるが、音色の点でドイツ型を使用している奏者も少なくない。概して、ドイツ型は中高音は美しいが、低音の響きに弱さをもつ。近年それを補うための改良も行われている。

 この楽器を管弦楽中に初めて使用したのはファーバーJ. A. J. Faberのミサ曲(1720年代)においてであるといわれる。そして18世紀中ごろマンハイム宮廷楽団に常備されたのを皮切りに、しだいに一般化し、数多くの名手を生んだ。モーツァルトは、クラリネット奏者シュタードラーAnton Stadler(1753―1821)との交友関係から『パリ交響曲』(1778)、オペラ『イドメネオ』(1781)、そして彼の唯一の『クラリネット協奏曲イ長調』(1791)などの傑作を書き、ウェーバーは奏者ベルマンHeinrich Joseph Bärmann(1784―1847)のために三つのクラリネット協奏曲(1811)を作曲。ブラームスもクラリネット五重奏曲(1891)を奏者ミュールフェルトのために作曲している。20世紀になるとクラリネットはジャズにも用いられ、ベニー・グッドマン、アーティ・ショーArtie Shaw(1910―2004)ら多くの名奏者を輩出している。

[前川陽郁]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クラリネット」の意味・わかりやすい解説

クラリネット
clarinet

楽器の一種。シングル・リードの木管楽器。移調楽器で,変ロ調とイ調が今日一般に使われる。 18世紀初期にシャリュモーから改良された。

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