北原白秋の第一詩集。1909年(明治42)3月易風社刊。「魔睡、朱の伴奏、外光と印象、天草(あまくさ)雅歌、青き花、古酒」の6章、119編からなる。1908年の最新作を冒頭の章とし、1906年の作の古い詩編を末尾に置く構成。「例言」には「予が象徴詩は情緒の諧楽(かいらく)と感覚の印象とを主とす」「予が幻覚には自ら真に感じたる官能の根柢(こんてい)あり」と象徴的手法の内実を示している。「われは思ふ、末世(まつせ)の邪宗(じゃしゅう)、切支丹(きりしたん)でうすの魔法(まはふ)。/黒船(くろふね)の加比丹(かひたん)を、紅毛(こうまう)の不可思議国(ふかしぎこく)を、/色赤(いろあか)きびいどろを、匂鋭(にほひと)きあんじやべいいる、/南蛮(なんばん)の桟留縞(さんとめじま)を、はた、阿剌吉(あらき)、珍酡(ちんた)の酒を。」と始まる冒頭詩「邪宗門秘曲」は、南蛮渡来の文化、事物にかかわる外来語の名称が幻惑的な世界を浮かび上がらせる。「天草雅歌」と「青き花」は新詩社同人によって行われた天草旅行(1907年)と南紀旅行(1906年)の記念作である。上田敏(びん)訳『海潮音』により親しんだボードレール、ベルレーヌの象徴詩や蒲原有明(かんばらありあけ)、薄田泣菫(すすきだきゅうきん)の詩に刺激を受けながら、〈邪宗門新派体〉という独自の象徴的手法を生み出した。初版の石井柏亭(はくてい)の装幀(そうてい)、挿画は「不可思議にして一種荘厳なる怪しさ」(「三版例言」)により『邪宗門』の世界とみごとに交響している。
[阿毛久芳]
『『日本近代文学大系28 北原白秋集』(1970・角川書店)』▽『河村政敏著『北原白秋の世界――その世紀末的詩境の考察』(1997・至文堂)』
北原白秋の第1詩集。1909年(明治42),易風社刊。1906年から08年にかけての作品121編を収録。〈例言〉に〈予が象徴詩は情緒の諧楽と感覚の印象とを主とす〉とあるとおり,上田敏訳の《海潮音》や,薄田泣菫,蒲原有明などの象徴詩の系譜に連なるものであり,異国情緒や世紀末的な感覚・官能をはなやかに歌って独特の耽美的な詩風を打ちたてた。新詩社同人たちとの長崎・天草地方旅行の成果たるキリシタン趣味を盛った〈南蛮詩〉や,《海潮音》経由のボードレール,ベルレーヌの影響を受けた作が見られるが,総じて外光の中の濃艶な官能と幻想の世界で,白秋後半生の純日本的・古典的な詩風とは著しい対照をなしている。
執筆者:渋沢 孝輔
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…川路柳虹の口語自由詩の試作が発表されたのは1907年だが,口語自由詩の芸術的熟成にはなお多くの曲折があった。明星派から出た北原白秋,木下杢太郎は,与謝野寛らと九州の南蛮遺跡をめぐり,その収穫が異国情緒と官能性を合体させた白秋の《邪宗門》(1909)に結実した。同年三木露風が《廃園》を出し,白露時代と並称された。…
※「邪宗門」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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