クリプトコックス症

内科学 第10版 「クリプトコックス症」の解説

クリプトコックス症(真菌症)

概念
 酵母であるCryptococcus neoformansによる感染症である.本菌はわが国の自然環境内に広汎に生息しているが,特にハトなどの堆積した糞のなかに多い.病原性は輸入真菌症を除くと最も強く,健常人が感染することもある.
感染経路・病態・病型
 C. neoformansの吸入により肺に感染し,進行すると血行性に全身に広がっていく.組織反応は肉芽腫形成が中心である.全身播種は皮膚,細網内皮系などさまざまであるが特に髄膜に多く,クリプトコックス症を診たら必ず髄膜炎の有無を確認しておく必要がある.危険因子として,細胞性免疫を中心とする免疫能の低下が重要であり,ステロイドの使用,リンパ腫,糖尿病などが知られているが,特にAIDSが重要である.肺外のクリプトコックス症はAIDSの指標疾患である.
臨床症状・検査成績・診断
 症状は比較的軽微な場合が多く,咳,痰,発熱などであるが,ときにまったく無症状で健診により発見される場合もある.胸部X線写真では結節,空洞,浸潤影などを呈する.(1→3)-β-d-グルカンは原則として陰性である.診断は痰,TBLB(transbronchial lung biopsy,経気管支肺生検),BALF(broncho-alveolar lavage fluid,気管支肺胞洗浄液)などを用いた菌の分離培養,塗沫,病理組織検査などにより行う.多糖類からなる厚い莢膜をもっているため,墨汁法を用いた塗抹標本は診断に重要である(図4-14-1).血清あるいは髄液を用いた抗原診断法は感度,特異度ともすぐれ,診断上重要である.髄膜炎では髄液中で単核球を中心とした細胞の増加がみられるが,結核性髄膜炎などとの鑑別に注意する.
治療
 健常人で肺に限局した軽症の場合,自然治癒の可能性もあるが,原則として抗真菌薬による治療を行う.キャンディン系抗真菌薬は無効であり,アゾール系抗真菌薬,アムホテリシンBあるいはアムホテリシンB+フルシトシンを用いる.基礎疾患のない肺病変では予後は比較的良好であるが,播種性では不良である.[亀井克彦]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クリプトコックス症」の意味・わかりやすい解説

クリプトコックス症
くりぷとこっくすしょう
cryptococcosis

真菌の一種であるクリプトコックス・ネオフォルマンスCryptococcus neoformans(フィロバシデエラ・ネオフォルマンスFilobasidiella neoformans)によって引き起こされる亜急性ないし慢性の疾患。原因となるクリプトコックス・ネオフォルマンスは広く世界中に存在するため、この病気は広い地域に流行がある。

 通常、飛沫(ひまつ)感染により肺臓に吸入、呼吸器部位に病巣が形成される。一過性の経過をたどることが多いが、ときとして、肺臓からこの酵母が血行性に運ばれ、全身感染に進行する場合がある。なかでも、髄膜や脳実質など中枢神経系の部位に感染、この病原体が繁殖し、髄膜炎となることが多く知られている。また、皮膚や粘膜傷口などより感染がみられ、この場合は皮膚や筋肉に限局的な病巣をつくることがある。エイズ(AIDS)、白血病悪性リンパ腫(しゅ)など先行疾患があり、細胞性免疫が低下した場合、二次的クリプトコックス症とよばれる症状となる。これは急激な全身性感染症で致死的なことが多い。

[曽根田正己]

『池本秀雄監修『目で見る深在性真菌症』(1993・メディカルレビュー社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のクリプトコックス症の言及

【クリプトコックス】より

…発酵性はもっていない。クリプトコックス・ネオフォルマンスC.neoformansは,ヒトに寄生してクリプトコックス症を引き起こす病原菌である。このクリプトコックス・ネオフォルマンスは,円形をしており,莢膜を除くと4~8μmの直径をもっている。…

※「クリプトコックス症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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