クリミア‐コンゴ出血熱(読み)くりみあこんごしゅっけつねつ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クリミア‐コンゴ出血熱」の意味・わかりやすい解説

クリミア‐コンゴ出血熱
くりみあこんごしゅっけつねつ

悪性で厳重な隔離治療が必要なウイルス性出血熱(流行性出血熱)の一つで、日本では感染症予防・医療法(感染症法)により1類感染症に分類され、検疫法により検疫感染症(検疫伝染病)に指定されている。

 1944年から45年にウクライナクリミア地方で野外作業中の兵士200余名が重い出血熱に罹患(りかん)したときに分離された病原ウイルスが、56年アフリカのコンゴでの出血熱患者から分離したウイルスと同一のものとわかり、CCHFウイルスCrimean-Congo hemorrhagic fever virusと名づけられて、病名もクリミア‐コンゴ出血熱とされた。

 この病気の分布域はアフリカ一帯、中近東、中央アジア、インド亜大陸、東欧、中国西部と広い。病原のCCHFウイルスの宿主は、ヒツジヤギウシラクダなどの家畜が中心で、野生の哺乳(ほにゅう)類にも存在し、マダニが媒介して人にウイルスを移す。人から人への感染は血液により、院内感染例も知られている。

 感染者の発症率は20%程度で、潜伏期間は2~9日である。症状エボラ出血熱などほかの出血熱に類似しているが、発症者の致命率は20%以上で予後が悪く、重症者では広範な皮下出血で真っ黒になり、消化管出血が激しく死に至る。

 治療は、回復期患者の血漿(けっしょう)投与が試みられているほかに有効な治療法はない。予防ワクチンもなく、流行地ではダニに刺されないように注意するほかに予防策はない。

[柳下徳雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クリミア‐コンゴ出血熱」の意味・わかりやすい解説

クリミア・コンゴ出血熱
クリミア・コンゴしゅっけつねつ
Crimean-Congo haemorrhagic fever

ウイルス性出血熱の一つ。ブニヤウイルス科のRNAウイルスの感染で起こる。潜伏期は2~9日で,インフルエンザ様の発熱,頭痛・筋肉痛などの痛みから始まり,結膜炎症状,顔面や胸部の紅潮,口蓋の紫斑が出現することが多い。下痢を伴う。重症になると,全身の出血,腎臓や肝臓の機能不全などを起こし,致死率は 15~20%になる。感染者の発症率は2割程度といわれる。 1944年,旧ソ連下のクリミア半島で流行,その後,アフリカ,中近東,東ヨーロッパ,中央アジア,南アジア,中国西部などに広く分布している。感染ルートはダニと多くの野生動物で,ヒトへはダニからの感染の危険性が高い。患者の血液など体液からの感染もあるが,空気感染は確認されていない。予防・治療のためのワクチンは未開発。抗ウイルス剤のリバビリンが効果があるとされる。感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 (感染症新法) でペストと並ぶ1類感染症に指定されている。

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