909-910年に,アキテーヌ公ギヨーム1世によって彼の所領ブルゴーニュのクリュニー荘園内に建設された修道院で,初代修道院長ベルノー以下歴代優れた修道院長をえて修道院改革(クリュニー改革)に空前の成功を収めた。当初からの貧民救済と第2代院長オドーOdo(878ころ-942)から始まる典礼の重視は不安な時代に生きる人々の心を当院に向けさせ,農民のみならず上層階級の支持をも受けた。この修道院の制度的特色をなす分院体制に基づく中央集権的組織は特に11世紀初頭における幾つかの教皇特許状によって,司教権をも排除しうる教皇直属の修道会として強化された。12世紀中期に最盛期を迎え,東は聖地から西はスコットランドまでほとんど全ヨーロッパに約1500の分院を有したが,クリュニー修道会に属さないものでもその修道慣習を採用するものが多かったから,教会生活におけるその影響力は抜群であった。グレゴリウス改革に影響を与えたとされるが,その関係は最近再検討を要するとされている。
執筆者:今野 國雄
927年献堂の最初のクリュニー修道院付属聖堂については不明。第4代院長マイヨルス(在任948-994)の下に建てられた,いわゆるクリュニー第2聖堂は,主祭室と両側の小祭室が段階的に並ぶいわゆるベネディクト式プランを特色とし,その形式は修道院改革運動の進展と軌を一にして各地に影響を与えた。1088年には第6代院長フーゴー(在任1049-1109)によりさらに大規模な,当時のヨーロッパ最大の,ほとんどゴシック大聖堂に匹敵する規模(長さ約182m)をもつ第3聖堂の建設が開始され,2代後のペトルス・ウェネラビリス(在任1122-56)によって1130年ごろ完成された。第3聖堂は放射状祭室付周廊と二重翼廊の小祭室合わせて15の礼拝堂をもち,おのおの直接採光されている二重側廊をもつ広大な身廊は,特徴的な尖頭円筒穹窿で覆われた。また,タンパンや柱頭は豊かに彫刻が施され,祭室は華麗な壁画で彩られた。〈崇高壮大な美は,神の栄光の地上的象徴であり,その感覚的歓びの享受を通して魂は神の栄光へと導かれる〉という,後にサン・ドニ修道院長シュジェール(スゲリウス)によって表明されることになる芸術理念が,ここに結晶化された。ロマネスク芸術の一方の範例たるクリュニー修道院の芸術は,清貧の美を求める他方のシトー会やカルトゥジア会の禁欲的芸術理念と対立し,激しい批判を浴びた。中世のもっとも完ぺきな建築とされた第3聖堂は,フランス革命期に売却解体され(1798-1819),今日では大翼廊南袖廊と内陣柱頭彫刻などをわずかに残すのみで,その全貌は測りがたい。しかし,建築についてはパレ・ル・モニアルParay-le-Monial,彫刻についてはオータン,ベズレー,壁画についてはベルゼ・ラ・ビルBerzé-la-Villeの例などをもって類推されている。
執筆者:岸本 雅美
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フランスの中東部、ソーヌ・エ・ロアール県の小村クリュニーにあるベネディクト会修道院。910年アキテーヌ公ギョーム1世が創設に力を貸したこの修道院は司教および封建諸侯から独立してローマ教皇庁と直結し、11世紀に「クリュニーの改革」とよばれた修道院改革の中心となった。2代目修道院長オドーののち、オディロー(在位994~1049)、ユーグ(在位1049~1109)の二大院長時代にはクリュニーだけで400人以上の修道僧が住み、12世紀初頭には約1500の同派修道院がヨーロッパ各地に生まれて一大勢力を誇った。聖ペテロとパウロに捧(ささ)げられた付属教会は1095年に献堂式が行われたが、当時のキリスト教建築中最大の規模をもち、ブルゴーニュ派ロマネスク建築の出発点となった。しかし14世紀にはすでにその勢力は衰え、16世紀の宗教戦争中は荒廃にさらされた。さらにフランス革命ののち1823年には、かつての大修道院のおもかげは失われ、今日みるようなわずかの遺構を残すのみとなった。
[名取四郎]
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…それが叙任権闘争である。その端緒となったのは10世紀に南フランスのクリュニー修道院で起こった教会改革運動であった。聖職売買の批判からはじまったこの運動はやがて私有教会制の否定にまですすみ,世俗君主が聖職者を任免してきたゲルマン諸国の慣習と全面的に対立することになった。…
※「クリュニー修道院」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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