日本大百科全書(ニッポニカ) 「クルス」の意味・わかりやすい解説
クルス(San Juan de la Cruz)
くるす
San Juan de la Cruz
(1542―1591)
スペインのキリスト教神秘家、詩人、聖人。通常「十字架の聖ヨハネ(サン・フアン・デ・ラ・クルス)」の名で知られる。マドリードの北西アビラ県フォンティベロス出身。洗礼名はフアン・デ・イエペスJuan de Yepes。サラマンカ大学で学ぶ。1563年、21歳のときカルメル会に入って聖職の道を歩むが、自ら積極的に進めた同修道会刷新運動がもとで逮捕され、約8か月後に決死的な脱獄を果たし、執筆活動と宗教活動を続ける。神との一致という主題をみごとな隠喩(いんゆ)を駆使して甘美な恋愛詩に仕上げた代表作『聖霊頌歌(せいれいしょうか)』(1584)は、近代の詩人たちへの影響が大きい。また神学的知識を背景とした散文作品は、自らの詩の注解、神秘体験の分析的説明になっている。1585~87年アンダルシアの管区長となったが、91年12月14日、同地方ウベタの修道院で死去。
[清水憲男]
『芳賀徹訳「聖霊頌歌」(『世界名詩集大成14』所収・1962・平凡社)』▽『東京女子跣足カルメル会訳『霊の賛歌』(1963・ドン・ボスコ社)』▽『東京女子跣足カルメル会訳『十字架の聖ヨハネ小品集』(1960・ドン・ボスコ社)』▽『奥野一郎訳『カルメル山登攀』(1980・ドン・ボスコ社)』
クルス(Ramón de la Cruz)
くるす
Ramón de la Cruz
(1731―1794)
スペインの笑劇作家(サイネテーロ)。マドリード出身、同地で没。笑劇(サイネテ)や軽喜歌劇(サルスエラ)など、純スペイン的小劇(ヘネロ・チコ)に活力を与えた功労者。外国劇の翻訳やバロック劇の改作を試みているうちに、幕間狂言(エントレメス)や笑劇など短い作品を書くようになり、その数は400を超える。『聖イシドロの野原』『おかんむりの栗売女(くりうりおんな)』『ともしびのファンダンゴ』などにみられるように、僧侶(そうりょ)、洒落者(しゃれもの)、伊達女(だておんな)、下町っ子など、さまざまな人物を登場させて民衆の生活を色鮮やかにとらえ、冗談、誇張、通俗語などを交えた生気のある用語でマドリードの風俗を風刺的に活写している。
[菅 愛子]