改訂新版 世界大百科事典 「くれなゐ」の意味・わかりやすい解説
くれなゐ (くれない)
佐多稲子(1904-98)の中編小説。1936年(昭和11)1~5月の《婦人公論》に連載,最終回〈晩夏〉は38年8月の《中央公論》に発表。同年9月中央公論社刊。昭和10年代初めの〈転向〉時代のなかで,それまで革命運動に献身的に従事してきたプロレタリア文学者である夫婦が,家庭の現実生活に立ち返る時にあらためて直面しなければならなかった矛盾葛藤と苦悩とを,作家である妻の側から鋭く追求した作品。夫婦とも仕事第一にと考えながら,現実には文学と家庭生活との矛盾葛藤に悩まされ,批評家の夫が外に愛人をつくり,作家である妻が,家庭崩壊の危機のなかで泥沼にあがくような苦悶を経験する過程が,厳しい内省的な筆致で,自伝的に描かれている。
執筆者:木村 幸雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報