(読み)ク

デジタル大辞泉 「く」の意味・読み・例文・類語

く[接尾]

[接尾]上代語》活用する語に付いて名詞化する。四段・ラ行変格活用の動詞助動詞けり」「り」「む」「ず」などはその未然形に付き、形容詞にはその古い未然形「け」に付く。ただし、助動詞「き」には、その連体形に付く。
主語または連用修飾語となって、
㋐「…すること」「…するもの」の意を表す。
「あかねさす日は照らせれどぬば玉の夜渡る月の隠ら―惜しも」〈・一六九〉
㋑「…する所」「…する場所」の意を表す。
「梅の花散ら―はいづくしかすがにこのの山に雪は降りつつ」〈・八二三〉
㋒「…するとき」の意を表す。
「み吉野の山の嵐の寒け―にはたや今宵もが一人寝む」〈・七四〉
「言ふ」「思ふ」などの意の動詞に付いて、引用文を導き、「…することには」「…するのは」の意を表す。
「寺々の女餓鬼申さ―大神おほみわの男餓鬼たばりてその子生まはむ」〈・三八四〇〉
引用文の末尾に置かれ、引用句を形成して、「…すること」の意を表す。
皇御孫命すめみまのみことのうづの幣帛みてぐらを朝日の豊さか登りに称辞竟たたへごとをへまつら―と宣る」〈祝詞・祈年祭〉
文末にあって、文全体を名詞止めの感動文とする。「…くに」「…くも」の形で用いられ、「…することよ」「…であることよ」の意を表す。
「苦しくも暮れ行く日かも吉野川清き河原を見れど飽かな―に」〈・一七二一〉
[補説]上二段・下二段・カ変・サ変の動詞および「つ」「ぬ」「しむ」などの助動詞には、その終止形の下に「く」と同じ意を表す「らく」が付く。ただし、上一段の「見る」には、その未然形に「らく」が付く。→らく(接尾)ク語法

く[五十音]

五十音図カ行の第3音。軟口蓋の無声破裂子音[k]と母音[u]とからなる音節。[ku]
平仮名「く」は「久」の草体から。片仮名「ク」は「久」の初2画。

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精選版 日本国語大辞典 「く」の意味・読み・例文・類語

  1. 〘 接尾語 〙 活用語に付いて名詞化する。四段活用の動詞に付いて「言はく」「思はく」など、その他の動詞に付いて「恋ふらく」「見らく」など、助動詞に付いて「知らなく」「有らなく」(打消)、「掛けまく」「散らまく」(推量)、「来しく」「寝しく」(過去)など。→ク語法
  2. 主語または連用修飾語となる場合。
    1. (イ) …こと。…すること。…するもの。
      1. [初出の実例]「前妻(こなみ)が 肴(な)乞はさば 立柧棱(たちそば)の 実の無け久(ク)を こきしひゑね 後妻(うはなり)が 肴乞はさば 柃(いちさかき)実の多け久(ク)を こきだひゑね」(出典古事記(712)中・歌謡)
      2. 「あかねさす日は照らせれどぬば玉の夜渡る月の隠ら久(ク)惜しも」(出典:万葉集(8C後)二・一六九)
    2. (ロ) …するところ。…する場所。
      1. [初出の実例]「梅の花散ら久(ク)はいづくしかすがにこの紀の山に雪は降りつつ」(出典:万葉集(8C後)五・八二三)
    3. (ハ) …する時に。…する時。
      1. [初出の実例]「み吉野の山の嵐の寒け久(ク)にはたや今宵も我が一人寝む」(出典:万葉集(8C後)一・七四)
  3. 引用文を導く場合。多く「言う」「思う」などの意の動詞に付く。…ことには。…のは。
    1. [初出の実例]「寺々の女餓鬼(めがき)申さ久(ク)大三輪の男餓鬼給りてその子生まはむ」(出典:万葉集(8C後)一六・三八四〇)
    2. 「而して頌を説きて曰はク、〈略〉とのたまふ」(出典:西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)一)
    3. 「冀(ねが)はくは賞財を以て廻して恵み施すことを為(し)たまへといひき」(出典:大唐西域記長寛元年点(1163)三)
  4. 引用文の末尾に置かれ、引用句を形成する場合。…すること(と申し上げる)。
    1. [初出の実例]「天の下の公民を恵び賜ひ撫で賜はむとなも神ながら所思行佐久(おもほしめさク)と詔ふ天皇が大命を諸(もろもろ)聞き食(たま)へと詔ふ」(出典:続日本紀‐文武元年(697)八月一七日・宣命)
  5. ( 多く、「…くに」「…くも」の形で用いる ) 文末に位置し、文全体を名詞止めの感動文とする場合。特に万葉集では否定の助動詞「ず」の未然形とともに、「なくに」の形で用いられることが多い。…することよ。…であることよ。
    1. [初出の実例]「苦しくも暮れ行く日かも吉野川清き河原を見れど飽かな君(くに)」(出典:万葉集(8C後)九・一七二一)
    2. 「あしひきの山のもみちにしづく逢ひて散らむ山道を君が越えま久(ク)」(出典:万葉集(8C後)一九・四二二五)

くの補助注記

( 1 )「く」を添えて動詞を名詞化する用法は「ク語法」とか「か行延言」とか呼ばれ、上代語に特有のもの。平安時代以降は訓点資料にいくつかの定まった言い方が残るだけである。ただし、それらの中には「曰(いわ)く」「恐(おそ)らく」「思惑(おもわく)」「老(お)いらく」「願(ねが)わくは」など、現代でも使われているものがある。
( 2 )接続については諸説がある。( イ )四段活用・ラ変動詞・助動詞「けり」「り」「む」「ず」の未然形、形容詞には古い未然形「け」にそれぞれ接尾語「く」が付き、その他の場合には、終止形に接尾語「らく」が付き、助動詞「き」は例外として連体形に付くとする。( ロ )活用語の未然形に、推量の助動詞「む」の零表記を媒介として、「こと」を意味する不完全名詞の「く」が付いたとする。( ハ )活用語の連体形に接尾語「く」が付くとする。( ニ )活用語の連体形に形式名詞「あく」が付くとする。ただし、( イ )( ニ )いずれもなお問題が残る。
( 3 )語源については、「其処(そこ)」などの「こ」、「奥処(おくか)」などの「か」、「何処(いづく)」などの「く」など、位置や場所を表わす語と同源とする説や、形式名詞「こと」を一音化した語と見る説もある。


く【く・ク】

  1. 〘 名詞 〙 五十音図の第二行第三段(カ行ウ段)に置かれ、五十音順で第八位のかな。いろは順では第二十八位で、「お」のあと、「や」の前に位置する。現代標準語の音韻では、軟口蓋の無声破裂音 k と母音 u との結合した音節 ku にあたり、これを清音の「く」という。これに対して、濁点をつけた「ぐ」は、軟口蓋の有声破裂音 g の結合した音節 gu と、軟口蓋の通鼻破裂音 ŋ の結合した音節 ŋu とにあてられる。ŋu は語頭以外で gu の代わりに現われる。gu, ŋu を合わせて「く」の濁音といい、特に ŋu については鼻濁音の「ぐ」という。鼻濁音の「ぐ」を特に示す必要があるときは、濁点を一点にし、または半濁点゜を用いることがある。「く」の字形は「久」の草体から出たもの、「ク」の字形は「久」の初二画をとったものである。ローマ字では、清音に ku を、濁音に gu をあてる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「く」の意味・わかりやすい解説

五十音図第2行第3段の仮名。平仮名の「く」は「久」の草体から、片仮名の「ク」は「久」の初めの2画からできたものである。万葉仮名では「久」「玖」「九」「鳩」「君」「群」(以上音仮名)、「來」(訓仮名)などが清音に使われ、「興」「遇」「隅」「求」「愚」「虞」(以上音仮名のみ)などが濁音に使われた。ほかに草仮名としては「(具)」「(倶)」「(九)」「(供)」「(求)」などがある。

 音韻的には/ku/(濁音/gu/)で、奥舌面と軟口蓋(こうがい)との間で調音される無声破裂音[k](有声破裂音[g])を子音にもつ。

[上野和昭]

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