グラウバー(読み)ぐらうばー(その他表記)Roy J. Glauber

日本大百科全書(ニッポニカ) 「グラウバー」の意味・わかりやすい解説

グラウバー(Roy J. Glauber)
ぐらうばー
Roy J. Glauber
(1925―2018)

アメリカの物理学者。ハーバード大学卒業、同大で博士号取得。スイス連邦工科大学などを経てハーバード大学教授。2005年、「光干渉性の量子理論への貢献」によって、ホールヘンシュ(「レーザーによる高精度分光学の発展への貢献」)とともにノーベル物理学賞を受賞した。

 光は波なのか粒子なのかという問題について、20世紀初頭から物理学界は論争を繰り返していたが、アインシュタインは、光は電子と同じ粒子であり、しかも波でもあるという新しい説を示した。この波動と粒子の二重性によって量子力学が誕生した。1960年に開発されたレーザー光は、振動数が光に近い周波数であり、短波長で位相のそろった光である。レーザーを利用して原子や分子を計測したり、きわめて短い時間の測定ができるようになった。しかしレーザーにはわずかな揺らぎがあるので、超精密な測定では誤差を生んでしまう。グラウバーは量子力学を基礎にして、揺らぎも含めたレーザーの基本的な性質を科学理論として説明することに成功し、量子光学という学問を創設した。この基礎理論をもとに応用研究が発展することになった。

 アメリカのホールとドイツのヘンシュはグラウバーの基礎理論をもとに、揺らぎの少ないレーザーに特殊な処理を行って、さまざまな周波数のレーザーをつくった。とくに周波数ごとに等間隔で櫛(くし)状に並べる「光周波数コム光コム)技術」をつくり、レーザーの周波数を高精度に測定できる手法を開発した。この開発で、性質のよくわかっているレーザーを基準にして、わかっていないレーザーの周波数を正確に測定することも可能になった。この研究は、きわめて正確に時間を測れる時計の開発や全地球測位システムGPS)の精度を向上させることなどに貢献すると考えられる。

[馬場錬成]


グラウバー(Johann Rudolph Glauber)
ぐらうばー
Johann Rudolph Glauber
(1604―1670)

ドイツの化学工業家。正規の学校教育を受けなかったが、ドイツ各地を遍歴して化学と薬学を修業した。ギーセンの宮廷薬剤師を務めたのち、アムステルダムに定住して優れた薬品製造所を建てた。彼の功績は、化学炉や蒸留器などの化学装置に改良を加え、さまざまな化学薬品や医薬を大量に製造したことである。濃硫酸、硝酸、塩酸やそれらの塩類の製造はとりわけ重要であるが、そのほか木材や石炭を乾留していろいろな揮発性有機物を得たり、アンチモンマンガンの化合物をつくった。また、三十年戦争(1618~1648)で疲弊したドイツを救うため、化学工業をおこして国内の資源を活用することを主張した。彼の化学理論はパラケルススの神秘主義的錬金術の影響を強く受け、食塩と硫酸からできる硫酸ナトリウムグラウバー塩)を奇跡塩と称してその医療効果を誇大に吹聴(ふいちょう)するような面もあったが、塩の成分や複分解についてはかなり明瞭(めいりょう)な概念をもっていた。『新しい哲学の炉』(1646~1649)をはじめ多数の著作を残した。晩年はヒ素や水銀の慢性中毒によって病気がちとなり、1670年に貧しく死んだと伝えられる。

[内田正夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「グラウバー」の意味・わかりやすい解説

グラウバー
Glauber, Roy J.

[生]1925.9.1. ニューヨーク,ニューヨーク
[没]2018.12.26. マサチューセッツ,ニュートン
アメリカ合衆国の物理学者。ハーバード大学在学中にマンハッタン計画に参加し,1949年同大学で物理学の博士号を取得,プリンストン高等研究所,カリフォルニア工科大学などを経て 1952年にハーバード大学に戻った。1963年レーザーでつくられる位相がそろったコヒーレント光の量子力学的な理論の構築に成功した。光を粒子(→光子)と波の両方の性質をもつものとしてとらえ,位相がばらばらで干渉を起こしにくい電球の光と異なり,位相がそろっていて干渉を起こすレーザー光が特別な光子状態の重ね合わせであること(→コヒーレンス)を理論的に説明した。この理論的枠組み量子光学と呼ばれ,原子のボース=アインシュタイン凝縮現象や量子テレポーテーション実験の基礎となっている。また実用面では,量子暗号量子コンピュータの開発に役立っている。この功績により,2005年ジョン・L.ホール,テオドール・W.ヘンシュとともにノーベル物理学賞を受賞した。1985年 A.A.マイケルソン・メダルとマックス・ボルン賞を授与され,1989年アレクサンダー・フォン・フンボルト賞を受賞。

グラウバー
Glauber, Johann Rudolf

[生]1604. バイエルン,カルルシュタット
[没]1668.3.10. アムステルダム
ドイツの化学者,医者。錬金術に関心をもち,積極的にドイツの天然資源開発と利用を唱え,種々の酸類,塩類の製造とその性質の研究,医薬,ペイント,爆薬,ガラス,陶磁器の製造に取組むなど,当時の化学工業分野における第1の先覚者。また置換ないし複分解反応にかなりの理解を示していた。なかでも食塩に硫酸を作用させると,一方に塩酸が他方に硫酸ナトリウムができることを発見し,後者が便通の薬になることを見出したことは有名。このため硫酸ナトリウムはグラウバー塩 (芒硝 ) ともいわれている。

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改訂新版 世界大百科事典 「グラウバー」の意味・わかりやすい解説

グラウバー
Johann Rudolph Glauber
生没年:1604-70

ドイツの化学者。ヨーロッパ各地を放浪しながら独学でパラケルスス派の医化学とアグリコラらの冶金術の知識を身につけ,のちアムステルダムに定住してすぐれた薬品製造所を建てた。炉や蒸留器に改良を加えて広範な動植鉱物を蒸留し,濃硫酸,硝酸,塩酸などのほか,多くの医薬や化学薬品を製造した。塩酸製造の副産物の美しい結晶(硫酸ナトリウム)は,いまもグラウバー塩と呼ばれる。錬金術の影響を深く受けながらも,塩の成分,複分解,化学親和力など化学上の諸概念について,かなり明確な考えをもっていた。また,三十年戦争で疲弊したドイツの経済的自立のために化学工業によって資源を活用すべきことを説いた。主著《新蒸留技術Furni novi philosophici》(1846-49)ほか多数の著作を残した。
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化学辞典 第2版 「グラウバー」の解説

グラウバー
グラウバー
Glauber, Johann Rudolph

ドイツに生まれ,主としてオランダで活躍した職人的化学者.アムステルダムに当時世界最高レベルの炉を建造し,薬品の製造・販売・開発にあたった.その著作“新しい哲学炉,または新しい蒸留法の記述”(1658年)は,多数の実践的化学過程を詳細に記述し,化学の実践指南書として,当時飛び抜けた人気を博した.この書物は,J.B.van Helmont(ファンヘルモント)の“医学の曙”(1643年)と並び,17世紀後半の化学の2大教科書とよべるものとなり,ラテン語,独語,仏語,英語で多数の版を数えた.大学と無縁の場所で,市場を考え,資本主義的経営をめざした点で(“ドイツの繁栄”(1656~1661年)という著作を出版している),ドイツ化学工業の元祖と位置づけられる.新物質としては硫酸と食塩から,いわゆるグラウバー塩(硫酸ナトリウム)を製造したことが有名.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

百科事典マイペディア 「グラウバー」の意味・わかりやすい解説

グラウバー

ドイツの化学者,薬剤師。カールシュタットの生れ。グラウバー塩(硫酸ナトリウムの10水塩)の発見者として知られる。

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