光の発生や伝搬,検出,あるいはもっと一般的に光と物質との間の,主として共鳴的な相互作用を量子論的に扱う学問。量子エレクトロニクスの名で呼ばれることもある。1954年にメーザーが発明されて,物質と電磁波との間の相互作用について新しい局面が開けた。すなわち,従来から観測され,利用されてきた吸収と自然放出の過程のほかに,新たに誘導放出過程を利用してのマイクロ波の増幅や発振ができるようになったのである。マイクロ波の場合には,それまでにも,クライストロンなどの電子管を使った電子回路でも,同様の作用を行わせることができたが,電子回路における電子の運動が受けもつ役割を,メーザーの場合には原子や分子の量子状態間の遷移といういわば量子力学的効果が受けもっている。原子や分子は電気的に中性なので,そのランダムな運動も熱雑音を生じず,したがって発振される電磁波のスペクトル純度や安定度が著しく改善された。一方,60年にメーザーと同じ原理にもとづくレーザーが出現すると,電子工学的作用,すなわち発振,ヘテロダイン検波,高調波発生などが,可視光や紫外光の領域でも行えるようになった。またコヒーレンスがよく,スペクトル的にも,空間的にも,時間的にも光のエネルギーがせまい範囲に集中できるようになって,さまざまな非線形光学現象が観測されるようになった。これらのメーザーやレーザーに関連した現象が量子光学の対象である。
一方,従来の光学の立場から,量子光学を限定的にみる場合には,原子や分子あるいは固体中のイオンのエネルギー準位間の量子力学的遷移に直接かつ共鳴的にかかわりをもつ光学現象をさすことが多い。たとえば光パルスがひき起こす自己集束や自己誘導透過,フォトンエコーなど,コヒーレンスが関係した非線形的光学現象などがそのおもな対象である。
→非線形光学
執筆者:清水 忠雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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