ボース‐アインシュタイン凝縮(読み)ぼーすあいんしゅたいんぎょうしゅく(英語表記)Bose-Einstein condensation

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ボース‐アインシュタイン凝縮
ぼーすあいんしゅたいんぎょうしゅく
Bose-Einstein condensation

 粒子ボースアインシュタイン統計に従うとき、エネルギーεをもつ粒子数の平均値はボース分布関数
  f(ε)=1/[e(ε-μ)/kT-1]
で与えられる。kボルツマン定数、μは化学ポテンシャルである。ボース粒子理想気体で温度を下げると、系の次元や密度によっては有限の温度T0以下でμが0になることがある。この場合、T0以下の温度で最低エネルギー(ε=0)の状態の粒子数は限りなく大きくなりうるので、莫大(ばくだい)な数の粒子がε=0の状態に「落ち込む」ようになる。これをボース‐アインシュタイン凝縮という。1925年にアインシュタインが、量子集団がもつこの奇妙な性質に気づいた。

 電子、陽子中性子などの素粒子フェルミ粒子であるが、それらが偶数個集まってできた原子はボース粒子とみなすことができる。たとえばヘリウム4の原子は、原子核に陽子と中性子が2個ずつ、その周りに2個の電子が存在するので、総計6個のフェルミ粒子があり、全体としてボース粒子としてふるまう。液体ヘリウム4は、絶対温度2.17K以下の温度において超流動となる。実際には、液体ヘリウム4には相互作用があってボース粒子の理想気体ではないが、この超流動現象はボース‐アインシュタイン凝縮の例であるといえる。

 1995年、コロラド大学のC・E・ワイマンらのグループは、レーザーを用いた巧妙な方法でルビジウム原子を絶対零度まであと1億分の2℃という極低温にまで冷却し、ボース‐アインシュタイン凝縮の観測に成功した。凝縮相にある原子気体は、これまでにはなかった新しい物質相であり、精力的に研究が続けられている。

[小形正男]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 の解説

ボース=アインシュタイン凝縮
ボース=アインシュタインぎょうしゅく
Bose-Einstein condensation

ボース凝縮ともいう。ボース統計に従う多くの粒子から成る系で,ある量子力学的な一粒子状態を占める粒子数の平均が全粒子数と同じ程度になった状態をいう。この現象は 1925年 A.アインシュタインによって初めて指摘された。すなわち,理想ボース気体では絶対零度においてすべての粒子が運動量ゼロの最低エネルギー状態に落ち込むこと,また転移点以下の温度では最低エネルギー状態を占める粒子の平均数が全粒子数と同程度であることを示した。液体,固体への凝縮が実空間における凝縮であるのと違って,ボース=アインシュタイン凝縮は運動量空間での凝縮である。ボース=アインシュタイン凝縮の概念は O.ペンローズ,L.オンサーガーによって相互作用のある粒子系にも拡張され,全粒子数と同じ程度の平均数をもった一粒子状態が巨視的な規模で現れた量子力学的波動関数という形で表現される。液体ヘリウム4の超流動状態はヘリウム4原子がこのような意味でボース=アインシュタイン凝縮した状態である。また固体中のエキシトン (励起子 ) のボース=アインシュタイン凝縮の可能性も予想されている。 1995年にはルビジウムのボース=アインシュタイン凝縮が磁気トラップ中に実現され,以後ナトリウム,リチウム等のアルカリ原子に対しても実現されている。この場合,運動量空間での凝縮ではなくトラップポテンシャルと原子間の力で決る基底状態への凝縮と考えられる。 (→超流動ヘリウム4 )

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

マイナ保険証

マイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにしたもの。マイナポータルなどで利用登録が必要。令和3年(2021)10月から本格運用開始。マイナンバー保険証。マイナンバーカード健康保険証。...

マイナ保険証の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android