光を櫛(くし)(コム)の歯列状の周波数スペクトルに分解したもの。光周波数コムともいう。光コムから可干渉性(コヒーレンス)の良い光やフェムト(1000兆分の1)秒という安定した短いレーザーパルスが得られる。光コムにより未知の光の周波数を従来の1000倍の高精度で求めることができるので、原子時計にかわる光時計や超高精度光周波数計測器への応用が進められ、また光を電磁波として制御可能にしたことから、ピコ(1兆分の1)秒級のパルス幅可変光源などの光通信光源や光コヒーレント断層映像(OCT:optical coherent tomography)への応用も進められている。
繰り返し波で変調された光波の周波数スペクトルを求めると、光周波数の前後に小さい一定間隔の並列した櫛の歯状のスペクトルが得られる。得られたスペクトル線(光コムの歯)は変調周波数の整数倍の位置に並ぶ。これらスペクトル線の光波を位相をあわせて合成すると、きれいな光パルスが得られる。光パルスの幅は利用できるスペクトルの広がり(光コムスパン)のほぼ逆数になることから短いパルス幅は広いスパンと対応する。既知の安定光源からつくった光コムに未知の被測定光とを重ねると、被測定光にもっとも近い周波数の光コムの歯と干渉し合いビート信号を発生することから、干渉した光コムの歯の周波数とビート周波数から未知の光の正確な周波数が算定できる。
商品化されている光コム発生器には、電気光学結晶(ニオブ酸リチウムLiNbO3)の両面を鏡で挟んだファブリ・ペロー共振器が搭載されており、その共振器に安定なレーザー光を入射し、マイクロ波による位相変調を加えると、1000本以上の精確な光スペクトルが得られるものがある。その光コムスパンは、10テラ(兆)ヘルツ(THz)以上で、光通信のCバンド(1530~1565ナノメートル)をカバーする。
光周波数測定用にと開発された当初の光コムのスパンは1テラヘルツ、数年後に10テラヘルツに、1997年には30テラヘルツに拡大した。20世紀末にはフェムト秒レーザーの光コムが実現し、さらに光ファイバー機能素子を加えて300テラヘルツスパンへの拡大や光パルスのパワーアップが進められている。光コムのきわめて均一なマイクロ波の周波数幅のスペクトルにより、セシウム原子の精確な電磁波周波数と未知の原子の出す電磁波の周波数を比べることができ、原子構造の高精度な解析を可能にした。さらに、光コムは周波数安定化レーザーと短パルスレーザーの両方を発生できる発振器でもあるので、通信、環境、医療分野での応用が期待されている。
フェムト秒レーザーの安定化により光周波数計測を進展させて2002年のマックス・ボルン賞を受賞したアメリカ国立標準・技術研究所の上級研究員ジョン・ホール。1970年に高精度な光パルスを発生するレーザー装置を発明し、1990年代にホールとともに光コム発生器を開発して誤差100兆分の1の光周波数の測定を可能にしたドイツのマックス・プランク量子光学研究所長テオドール・ヘンシュ。この両者は「光周波数コム技術を含むレーザーを用いた精密分光の発展への貢献」により、「光干渉性の量子理論への貢献」のアメリカ・ハーバード大学の教授ロイ・グラウバーとともに2005年のノーベル物理学賞を受賞している。
[岩田倫典]
『松本弘一編『光測定器ガイド』全面改訂版(2004・オプトロニクス社)』▽『榊裕之監修、財団法人丸文研究交流財団選考委員会編『科学立国日本を築く――極限に挑む気鋭の研究者たち』(2006・日刊工業新聞社)』
(今井秀孝 独立行政法人産業技術総合研究所研究顧問 / 2008年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
《〈和〉doctor+yellow》新幹線の区間を走行しながら線路状態などを点検する車両。監視カメラやレーザー式センサーを備え、時速250キロ以上で走行することができる。名称は、車体が黄色(イエロー)...
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