印刷という量産技術の活用を前提に、主として視知覚という観点から、伝達内容を美的かつ効果的に表現することを目ざして行うデザイン。ポスター、新聞広告、雑誌広告、宛名広告(ダイレクト・メール)、包装紙、包装箱、パンフレット、書籍、雑誌、新聞、ハウス・オーガン(機関紙)、カレンダー、地図、図表、レコード・ジャケット、そして封筒や便箋(びんせん)などの事務用品までがその対象となる。このように、現代の市民生活の広範囲にわたって、グラフィック・デザインの成果は根づいている。
グラフィック・デザインは、文字群と画像群をデザインし、さらにそれを綜合(そうごう)することによって成り立つ。しかもその成果は、製版、印刷という行程を経て初めて具体化される。したがって、凸版、凹版、平版といった各版式の特徴を理解し、それぞれの版式の特性を生かした表現を目ざすことが重要であり、同様に、印刷用紙の選択も看過しえない。また、色数(印刷度数)の決定に際しては、表現効果と経費との関係も十分に顧慮しなければならない。
活版印刷術は15世紀中葉に発明されていたとはいえ、グラフィック・デザインに飛躍的前進があったのは、19世紀に石版印刷術による多色刷りが普及してからであり、同世紀後半のシェレ、ロートレック、ミュシャらの活躍がそれである。20世紀前半からは写真製版を活用し、本格的な展開が繰り広げられることとなる。キュビスムの影響を受けたカッサンドル、構成主義のリシツキー、さらにヤン・チヒョルトやモホリ・ナギ、ハーバート・バイヤーらの活躍が目をひく。ことにモホリ・ナギとバイヤーは、バウハウスなどの機関を通じて後進の育成にあたった功績も大きい。
日本では1910年代の橋口五葉(ごよう)、和田三造(さんぞう)、北野恒富(つねとみ)(1880―1947)、杉浦非水(ひすい)、片岡敏郎(としろう)(1882―1945)らの先駆的活動が見逃せない。日本でグラフィック・デザインの本格的活動が開始されるのは第二次世界大戦後で、1951年(昭和26)の「日本宣伝美術会」、1952年の「東京アド・アートディレクターズクラブ」(東京アートディレクターズクラブの前身)の結成、1955年の「グラフィック'55展」の開催、1960年に東京で催された「世界デザイン会議」の成功などが、その後の日本のグラフィック・デザインの針路を方向づけた。「グラフィック'55展」の日本人メンバー、伊藤憲治(けんじ)(1915―2001)、大橋正(ただし)(1916―1998)、亀倉雄策(ゆうさく)、河野鷹思(こうのたかし)(1906―1999)、早川良雄(よしお)(1917―2009)、原弘(はらひろむ)、山城隆一(やましろりゅういち)(1920―1997)らがこの分野に与えた影響は少なくない。1978年には、グラフィック・デザイナーの職能団体「日本グラフィックデザイナー協会」が発足、1984年には公益法人化され再発足している。
[武井邦彦]
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(武正秀治 多摩美術大学教授 / 2008年)
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…さらに,19世紀末以降とくに20世紀には写真術の進歩と複製技術の発達を背景として,挿絵による視覚的なコミュニケーションが書物の枠をこえて広がるメディアを生み出した。現代のグラフィック・デザインにおけるイラストレーションは,より広い表現の一ジャンルを形成している。 グーテンベルク以前の歴史では,古代中国の象形文字が最古のイラストレーションと考えられる。…
…〈アーティスト〉が〈デザイナー〉に変化したことは,彼らが単なる装飾家でなく,計画的な決定を行う立場に近づいたことを意味しているし,〈コマーシャル〉が〈グラフィック〉に変わったのは,単に企業の商業活動に関与するにとどまらず,その活動がより広範なものとなったことを強調している。 このことはグラフィック・デザイン以外のジャンルにおいても同様である。今日では,インダストリアル・デザイン,テキスタイル・デザイン,ファーニチャー・デザイン,アーバン・デザインなど,デザインという言葉に限定する形容詞をつければ,無数の領域を指し示すことができる。…
※「グラフィックデザイン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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