グラーツ(読み)ぐらーつ(英語表記)Graz

日本大百科全書(ニッポニカ) 「グラーツ」の意味・わかりやすい解説

グラーツ
ぐらーつ
Graz

オーストリア南東部、シュタイアーマルク州の州都で、ウィーンに次ぐオーストリア第二の都市。人口22万6244(2001)。アルプスの東縁部にドナウ川の支流ムール川が形成した扇状地上に位置し、標高364メートル。市内、ムール川の東岸に、比高120メートルの高さでそびえるドロマイト(苦灰岩)の丘シュロスベルクSchlossbergは、すでに民族移動の時代(800ころ)にスロベニア人が砦(とりで)を置いた所である。グラーツの名は、スロベニア語で「城」を意味するグラデクGradecに由来する。町の名は、トラウンガウ大公治下の町として1115年に古文書に初めて現れ、1192年バーベンベルク家、さらに1282年ハプスブルク家の領地となった。18世紀なかば、女帝マリア・テレジアの時代には商業都市として栄えたが、ナポレオン軍の進入により、1797年、1805年、1809年の3回にわたって占拠された。1840年以降、鉄道(トリエステ線)の開通もあって、州内の鉄鉱石炭を基盤に重工業の発達がみられた。工業には車両、機械、金属製品、紙、ガラス、皮革、繊維などみるべきものがある。

 町には官公庁のほか、総合大学(1586創立)、工科大学(1827創立)などの教育機関、州立博物館、民俗博物館、劇場、オペラ劇場など文化施設も備えている。町の中心部には旧市域があり、市庁舎、州庁舎、グラーツ王宮、15世紀の大聖堂、17世紀のマウソレウム(皇帝フェルディナンド2世の霊廟(れいびょう))など中世以来各時代のおもかげ、とくに16~17世紀のイタリア建築の影響をしのばせる建造物が多くみられ、1999年に世界遺産の文化遺産として登録されている(世界文化遺産)。シュロスベルクの丘は展望のよい公園で、ここには町のシンボルである16世紀の時計塔と鐘楼があり、毎日7時、12時、19時に鐘の音が町中に響き渡る。

[前島郁雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「グラーツ」の意味・わかりやすい解説

グラーツ
Graz

オーストリア南東部,シュタイアーマルク州の州都。ウィーンの南西約 150km,ムール川に沿い,南方沃野を控えた交通の要地に位置する。9世紀頃町を見おろすシュロスベルク (475m) に城塞が築かれたことに始まり,1240年に都市権を獲得。 15~16世紀にはオスマン帝国やハンガリーの進出に対抗する重要な拠点となった。 17~18世紀には交易中心地として栄え,19世紀以後急速に発達し,オーストリア第2の都市となった。鉄鋼,精密機械,光学機械,皮革,紙,繊維などの工業が盛んで,穀物,果物,ワインなどの取り引きが行なわれる。 1586年創立のグラーツ大学をはじめ,工業大学,経済,教育,音楽などの各種学校が多く,民俗博物館,武器博物館 (16~17世紀の武器収集では世界最大) ,歌劇場,美術館など文化施設も整っている。シュロスベルクの南斜面には 1561年建設の時計塔があり,山頂には 1588年に建てられた鐘楼がある。 15世紀のゴシック様式の王宮,17世紀のバロック様式の宮殿が残る市街は,1999年世界遺産の文化遺産に登録された。人口 23万 2155 (1991) 。

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