改訂新版 世界大百科事典 「ケイ素樹脂」の意味・わかりやすい解説
ケイ(珪)素樹脂 (けいそじゅし)
silicone resin
有機ケイ素重合物。シリコーンともいう。
化学式に示したR,R′あるいは重合度nを変えることによって,油状(シリコーン油),ゴム状(シリコーンゴム),樹脂状(狭義のケイ素樹脂,シリコーン樹脂)と多様に変化する。なお中心元素であるケイ素はシリコンsiliconと表現される。
ケイ素樹脂は主鎖に炭素を含まず,ケイ素-酸素結合(シロキサン結合)から成り立っているのが特徴であり,一般に分子鎖は柔軟で,かつ耐熱性が比較的高い(最高250℃)。したがって,油またはゴムとして使用される場合は直鎖の高分子でよいが,接着剤,シーラント,樹脂として用いる場合には不飽和結合を導入し,硬化剤を加えて橋架けさせるか,3官能性のシラン(水素化ケイ素)化合物を共重合させて橋架け構造をつくりやすくさせる必要がある。
ケイ素樹脂は1940年にアメリカのコーニング・グラス社のサリバンSullivanとハイドHydeによってはじめて見いだされ,その後ダウ・ケミカル社とコーニング・グラス社の合弁会社ダウ・コーニング社によって44年に工業化が開始された。さらにGE社のロッショーE.G.Rochowがケイ素と塩化アルキルによる直接合成法を見いだし,この方法に基づいて同社が47年以降企業化している。
製法
ケイ素は石英をコークスで還元して製造される。このさい副反応防止のため少量の鉄を加える。
このようにして得たケイ素にロッショーが発見した方法でハロゲン化アルキルを反応させる。具体的にはケイ素と銅の合金をつくり,これを230~290℃に加熱して塩化メチルガスを通す。得られたジメチルジクロロシランを主とする反応混合物を蒸留によって分離する。
副生成物としてトリメチルクロロシラン,メチルトリクロロシランが得られる。
重合は容易であり,酸性の水中に入れることにより,ジメチルジシラノールを経てポリジメチルシロキサンとなる。
共重合は重合のさい同時に第二成分を加えて反応させる。重合度の調節はトリメチルクロロシランの添加によって行い,低重合度のケイ素樹脂を必要とする場合には多量に加えればよい。
最初に見いだされたグリニャール試薬を用いるジメチルジクロロシランの合成法は,実験室では多くの有機クロロシラン化合物の合成に用いうるが,工業的には価値を失った。
性質と用途
(1)シリコーン油 比較的低重合度の直鎖状のポリジメチルシロキサン。化学的に安定で,撥水性もあり,かつ温度によって粘度が変化せず,低温でも固まらない。したがって潤滑油,撥水剤,絶縁油に適している。また表面張力の低い利点を生かして消泡剤,プラスチック金型の離型剤としても用いられる。メチル基の一部をフェニル基で置きかえると耐熱性が向上し蒸気圧も低くなるので,高温絶縁油や真空ポンプ油に適する。シリコーン油にステアリン酸ナトリウムなどを混和した加工品がシリコーングリースで,揮発性が少なく凝固点が低いので,高真空用グリース,航空機の点火栓用グリースなどに用いられる。
(2)シリコーンゴム 高分子量(重合度2000以上)のポリジメチルシロキサンはゴム状の固体となる。このゴムは過酸化ベンゾイルなどにより加硫することができる。耐熱性,低温特性に優れ(-60~-250℃で使用される),耐オゾン性,耐コロナ性,耐油性,耐化学薬品性もあるので,耐熱ゴムロール,チューブ,パッキング,電線,オプティカルファイバーの被覆などに用いられる。生物学的に安定かつ無毒なので,医療材料,生体代替品にも用いられる。
(3)ケイ素樹脂(シリコーン樹脂) 反応,架橋性のケイ素樹脂はRTVと呼ばれ,シーラントあるいは接着剤として用いられる。高層建築の外壁の目地,窓ガラスの枠,浴槽,冷凍庫,自動車のシールなどである。
分子中に不飽和結合を導入したケイ素樹脂は,ガラス繊維,無機充てん剤(フィラー),硬化剤を混合し,圧縮成形または注入成形法によって加熱硬化させ,成形品とする。ガラス繊維布にケイ素樹脂を含浸させ,積層品をつくって樹脂としても用いられる。これらの成形品は電気特性を生かして,高温用電子部品,高温用積層板,耐寒・耐熱性の電子回路のコーティング材料などに用いられている。またケイ素樹脂塗料は電気絶縁,耐熱塗料とされる。
近年では官能基を有する有機変性シリコーン,たとえばアミノ変性シリコーン,エポキシ変性シリコーン,カルボキシ変性シリコーンが,化粧品,ポリッシュ,離型剤などの分野で,まだ量は少ないが用いられはじめた。
ケイ素樹脂は非常に優れた特性を有しているが,価格が高いため特殊な用途だけに用いられ,生産も少ないが年率20%近い伸長をとげており,今後の展開が期待される樹脂である。
執筆者:森川 正信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報