ケイ素鋼(読み)けいそこう(その他表記)silicon iron

改訂新版 世界大百科事典 「ケイ素鋼」の意味・わかりやすい解説

ケイ(珪)素鋼 (けいそこう)
silicon iron

鉄にケイ素が3%内外含まれた軟質磁性材料。主としてトランスモーター磁心として使用される。ケイ素鋼はホットコイルを冷間圧延し,焼きなまして製造されるので,ある程度の延性を必要とする。ケイ素含有量の上限を3%内外におさえているのは,理論的な最適量はこれよりも大きいが,ケイ素量が増加すると加工性が著しく劣化するためである。ケイ素の役割は,純鉄の高い透磁率を損なわないで,比電気伝導度を低下させて,電磁鋼板として必要な低い鉄損を実現することにある。さらにケイ素は二元状態図でのγループ形成元素であるため,3%ケイ素合金は高い焼きなまし温度でもα相に保たれるので,電磁鋼板としての理想的な方向性を与えるための熱処理を可能にする。このようにケイ素を含むだけでも優れた電磁鋼板(電気鉄板ともいう)としての性能を発揮するが,次のように方向性を与えることにより,その性能はさらに向上する。前者を無方向性電磁鋼板後者を方向性電磁鋼板(方向性ケイ素鋼帯)と呼んでいる。体心立方晶の鉄および鉄合金の磁化容易軸は〈100〉方向なので,ゴス方位という(110)面が圧延面に,〈100〉方向が圧延方向に向いた圧延板の集合組織をもつケイ素鋼板は1回の冷間圧延後焼きなまし,2回目の冷間圧延後比較的高温で焼きなましをする2回圧延2回焼きなまし法により製造される。このようにしてつくられたものは結晶配列が圧延方向に対して約7度のずれであるが,最近ではずれが約3度の高性能のものもつくられ,高配向性ケイ素鋼帯と呼ばれている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ケイ素鋼」の意味・わかりやすい解説

ケイ素鋼
けいそこう
silicon steel

ケイ素を含む特殊鋼。1900年イギリスの冶金(やきん)学者ハドフィールドが、鉄にケイ素を加えた合金、すなわちケイ素鋼を発明した。鉄は強磁性元素のなかで資源的にもっとも豊富であって、価格も安い。しかも磁化の強さが2.15テスラ(室温)と高く、キュリー温度も770℃と高いので、変圧器、モーター、発電機などの磁心材料としての実用性が高い。しかし比抵抗が0.1マイクロオームメートル程度と低く、交流で使用すると渦電流損失が大きい。そのため、電気的に絶縁した薄板あるいは微粒子を重ね、あるいは集めて使用することになる。その際にケイ素の添加は比抵抗を上昇して(3%の添加で約0.5マイクロオームメートル)渦電流損失を低減し、さらに透磁率を高めるなど、鉄の磁心材料としての性質を向上するのに有効である。しかし多量に添加すると塑性加工が困難になり、また磁化の強さも低下するので、通常は薄板の場合、3%までのケイ素合金が用いられる。1934年ゴスN. P. Gossは、ケイ素鋼に冷間圧延と熱処理とを組み合わせて、圧延方向に磁化しやすい方向へ結晶が配列した集合組織をつくることに成功した。これを方向性ケイ素鋼板といい、無方向性と比べて、圧延方向に磁化するときエネルギー損失は約3分の1に低減する。結晶の配列を向上させるために硫化マンガン、窒化アルミニウムなどを微量に添加している。ケイ素鋼は発電機、モーター、変圧器など電力用機器の磁心材料として重要な位置を占めている。

[本間基文]

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化学辞典 第2版 「ケイ素鋼」の解説

ケイ素鋼
ケイソコウ
silicon steel

ケイ素鉄,ケイ素鋼板,電気鉄板ともいう.約4.5質量% までのSiを加えたFe-Si合金.Cそのほかの不純物はごく微量におさえられている.圧延で薄板にし,変圧器,電動機などの鉄心(磁心)に用いられる.鉄にSiを加えると,高い透磁率と低い保磁力のままで電気抵抗が増し,交流磁場のなかでのエネルギー損失(鉄損)が小さくなる.しかし,Siが5% を超えるともろくなって薄い板に加工できない.普通のケイ素鋼板は,方向によって性質のかわらない無方向性のものである.異方性ケイ素鋼板は強い冷間圧延と適当な条件での焼なましを交互に何回も繰り返して,(01)面を圧延面に,磁化容易軸の〔100〕方向を圧延方向に一致させたもので,その方向で最良の特性が得られ,鉄損も普通鋼板の1/4以下となる.また,圧延面が(100)面に一致するような再結晶集合組織にしたものは,小型変圧器の鉄心として打抜き片の互いに直角な二方向がともに〔100〕となり,二方向性ケイ素鋼板とよばれて,異方性のものよりさらにすぐれた特性を有し,計測機器の小型軽量化に大いに役立っている.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

百科事典マイペディア 「ケイ素鋼」の意味・わかりやすい解説

ケイ(珪)素鋼【けいそこう】

鉄にケイ素を3%前後含む軟質の磁性材料。高透磁率その他の良好な電気的特性をもち,鉄損が著しく少ないので,発電機,電動機,変圧器の磁心などに使用される。

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