日本大百科全書(ニッポニカ) 「ケイ素鋼」の意味・わかりやすい解説
ケイ素鋼
けいそこう
silicon steel
ケイ素を含む特殊鋼。1900年イギリスの冶金(やきん)学者ハドフィールドが、鉄にケイ素を加えた合金、すなわちケイ素鋼を発明した。鉄は強磁性元素のなかで資源的にもっとも豊富であって、価格も安い。しかも磁化の強さが2.15テスラ(室温)と高く、キュリー温度も770℃と高いので、変圧器、モーター、発電機などの磁心材料としての実用性が高い。しかし比抵抗が0.1マイクロオームメートル程度と低く、交流で使用すると渦電流損失が大きい。そのため、電気的に絶縁した薄板あるいは微粒子を重ね、あるいは集めて使用することになる。その際にケイ素の添加は比抵抗を上昇して(3%の添加で約0.5マイクロオームメートル)渦電流損失を低減し、さらに透磁率を高めるなど、鉄の磁心材料としての性質を向上するのに有効である。しかし多量に添加すると塑性加工が困難になり、また磁化の強さも低下するので、通常は薄板の場合、3%までのケイ素合金が用いられる。1934年ゴスN. P. Gossは、ケイ素鋼に冷間圧延と熱処理とを組み合わせて、圧延方向に磁化しやすい方向へ結晶が配列した集合組織をつくることに成功した。これを方向性ケイ素鋼板といい、無方向性と比べて、圧延方向に磁化するときエネルギー損失は約3分の1に低減する。結晶の配列を向上させるために硫化マンガン、窒化アルミニウムなどを微量に添加している。ケイ素鋼は発電機、モーター、変圧器など電力用機器の磁心材料として重要な位置を占めている。
[本間基文]