ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ケルテース」の意味・わかりやすい解説
ケルテース
Kertész, Imre
[没]2016.3.31. ブダペスト
ハンガリーの作家。現代ハンガリー文学の反体制文化における,比類ない,挑発的な作家であり,ホロコーストを描いた半自伝的な作品で知られる。ユダヤ系ハンガリー人として生まれ,第2次世界大戦中,14歳でポーランドのアウシュウィッツ収容所へ送られた。のちドイツのブーヘンワルト収容所に移され,1945年5月ドイツの敗戦により解放された。戦後,祖国に戻って新聞記者となったが,共産主義政権の文化政策を拒み,1951年に失職。その後はフリードリヒ・ウィルヘルム・ニーチェやジグムント・フロイトなどドイツ語の著作の翻訳で糊口をしのいだ。1960年代半ばに『運命ではなく』Sorstalanság(1975。2005映画化)を完成させたが,約 10年にわたって日の目をみず,刊行後も認められなかった。同書はユダヤ人収容所での経験に基づく半自伝小説であり,『破綻』A kudarc(1988),『生まれなかった子供のためのカディッシュ』Kaddis a meg nem született gyermekért(1990)も同じ手法で執筆されている。1989年の共産政権崩壊後に精力的な作家活動を再開し,また 1990年に『運命ではなく』がドイツ語に訳されるなどして,国内外でしだいに知られるようになった。ほかの著作に『イギリスの旗』Az angol lobogó(1991),『ガレー船日記』Gályanapló(1992),『もうひとりの自分変身物語』Valaki más: a változás krónikája(1997)などがある。最大の賛辞を受けた『運命ではなく』をはじめとする業績により,2002年ハンガリー人として初のノーベル文学賞を受賞した。
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