現代日本の映画作家として特異な位置を占める鈴木清順(1923- )の代表作の一つで,1966年の日活映画。鈴木隆の同名小説を原作に新藤兼人が脚本を書いた。いわゆる戦前(第2次世界大戦以前)を時代背景に,硬派中学生・南部麒六の青春遍歴がつづられる。舞台は前半が岡山,後半が会津若松と分かれるが,物語はつねにけんかと慕情を2焦点にして進展し,主人公の麒六(高橋英樹)は,けんかの達人・スッポン(川津祐介)のもとでけんか修行をして,対立する一派と大げんかを繰り広げる一方で,岡山の下宿の娘・道子(浅野順子)への思慕をつのらせていく。この2焦点を徹底して肉体の動き(アクション)において描く点がこの映画の特色で,数々のけんかシーンが肉体の激突を描いて生理的ななまなましさを訴え出すとともに,慕情のシーンでも,例えば主人公が道子のピアノのキイを男性器でたたくといったふうに,熱い恋心が肉体的に描写される。随所に感じられる乾いたユーモアは,この肉体的アクションゆえであろう。また,画面づくり自体が変幻自在な動きに満ちていて,活劇性とリリシズムと荒唐無稽さをめまぐるしく見せていく。麒六の北一輝との遭遇,1936年の二・二六事件をきっかけとしたラストの東京への出発が象徴するように,けんかと慕情の2焦点の渦という作品のあり方は,明らかに鈴木清順の〈浪漫精神〉の表出といえるが,その映画的達成のゆえに,2本立て番組の添物のモノクロ作品としてつくられながらも,青春映画の傑作となっている。
執筆者:山根 貞男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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