青春映画(読み)せいしゅんえいが(その他表記)juvenile film

改訂新版 世界大百科事典 「青春映画」の意味・わかりやすい解説

青春映画 (せいしゅんえいが)
juvenile film

明確な映画のジャンルとして存在する名称ではなく,きわめて漠然と〈青春〉を描いた映画の総称になっているが,その源流はサイレント時代からハリウッドでつくられはじめた〈スポーツ映画〉や〈学生映画〉に端を発した明るい〈学園もの〉で,〈青春明朗編〉といったうたい文句で形容されるような一連の若者の映画の系統をひく作品のことである。山本喜久男著《日本映画における外国映画の影響》によれば,《キネマ旬報》(1930年10月11日号)の松竹映画《青春の血は躍る》評のなかに,〈“カレッジ・ロマンス”は初期の米国映画が生んだ映画劇の一形式である。華やかな学生時代の恋愛や友情,スポーツ,母校名誉,楽天的な寄宿生活,教室に起る事件等々は,充分にロマンス映画的な素材だったからである〉とあり,これが1960年代の加山雄三主演の《若大将》シリーズ(《大学の若大将》1961,《エレキの若大将》1965,等々)に至るまでの〈青春映画〉の基本的な定義といえよう。実際,トム・ムーア主演《大学のブラウン》(1918)およびウィリアム・ヘインズ主演のリメーク(1926),リチャード・ディックス主演《蹴球王》(1926),ビーブ・ダニエルズ主演《娘十八運動狂》(1926),それにユニバーサルの〈連続映画〉だった《大学生活》シリーズ(1926-27)や喜劇ロイド人気者》(1925),《キートンの大学生》(1927)等々の影響で,日本でも《若き人々》(1922),《我等の若き日》《青春の歌》(ともに1924),《青春の血は躍る》(1930)等々といった模倣作品がつくられ,その題名からして〈若さ〉〈青春〉は〈スポーツ〉の代名詞であった。青春=スポーツというこの概念はハヤブサ・ヒデト監督・主演のオートバイ活劇《青春恋愛街》(1937),フランスのスキー映画《青春乱舞》(1938)などをへて,夏の甲子園の高校野球をとらえた市川崑監督の記録映画《青春》(1968)に至るまで続き,今なお変わらず存続している。

 青春映画という呼称が一般的に使われはじめるのは戦後になってからで,《青い山脈》(1949)をはじめとする〈石坂洋次郎物〉を中心に打ち出された東宝青春映画路線以来のことで,《青い山脈》が当時〈健康な作品〉と評されたように,ここにも〈明朗青春編〉のイメージが受け継がれる。そして戦前の〈あかるい蒲田映画〉,鈴木伝明主演の〈スポーツ映画〉を受け継いで《若大将》シリーズがつくられるといったぐあいに,青春映画はもっぱらその〈明るさ〉を売りものにしてきたが,他方では,小津安二郎監督《青春の夢いづこ》(1932)からドイツ映画《青春》(1941公開)をへて黒沢明監督《わが青春に悔なし》(1946)に至る青春の挫折を描いた〈暗い〉青春映画の流れもあり,また日本最初の〈接吻映画〉として知られる佐々木康監督,大坂志郎,幾野道子主演の《はたちの青春》(1946)の題名にこめられた青春=性の解放のイメージは,1950年代に入って高校生の〈桃色遊戯〉を描いた〈性典映画〉(《十代の性典》1953)や学生の乱行を描いた〈太陽族映画〉(《太陽の季節》1956)をへて青春映画のもう一つのシンボルと化し,フランスの〈ヌーベル・バーグ〉に次ぐ〈松竹ヌーベル・バーグ〉の大島渚監督《青春残酷物語》(1960)に至って,屈折した青春のイメージが〈明朗青春編〉の概念を覆すことになる。さらに70年代には神代辰巳監督の《青春の蹉跌》(1974)で青春=挫折のイメージは極点に達する。アメリカでは《乱暴者》(1954)のマーロン・ブランドや《理由なき反抗》(1955)のジェームズ・ディーン以来,〈反逆する青春〉のヒーローが現れ,青春=反逆のイメージが強まり,ヒッピーを主人公にした《イージー・ライダー》(1969)も学園闘争を描いた《いちご白書》(1970)も,その〈反体制〉の特質のゆえに青春映画の名で呼ばれることになる。なお,《人生劇場 青春・愛慾・残俠篇》(1972)を撮ったときの加藤泰監督の〈映画は青春である〉ということばに象徴されるような,人生=映画=青春という究極の図式にたどりつく〈青春映画〉の定義も考えられよう。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の青春映画の言及

【ディーン】より

…レイ・コノリー監督のドキュメンタリー映画《ジェームズ・ディーンのすべて 青春よ永遠に》(1976)は,その原題《最初のアメリカン・ティーンエージャー》が示すとおり,おとなでも子どもでもない〈ティーンエージャー〉という年代の文化が初めて成立した時代に,それを最初に表現した映画スターがディーンであったと定義している。いずれにせよ,〈青春映画〉のイメージの転換点に立つスターであり,彼の表現した,屈折した心情と〈挫折感〉〈死の願望〉にみちた青春像は,〈ポーランドのジェームズ・ディーン〉と呼ばれた《灰とダイヤモンド》(1958)のズビグニエフ・チブルスキーをはじめ各国の青春映画スターに受け継がれ,《アウトサイダー》(1983)のマット・ディロンなど,現在に至るまでつづいている。【柏倉 昌美】。…

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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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