日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゲッケイジュ」の意味・わかりやすい解説
ゲッケイジュ
げっけいじゅ / 月桂樹
[学] Laurus nobilis L.
クスノキ科(APG分類:クスノキ科)の常緑小高木。地中海地域原産で、古くから栽培されている。高さ12メートルに達し、葉は革質で長さ7~12センチメートル、幅2~5センチメートル、両端がとがり、周辺は波打つ。雌雄異株であるが、日本には雌木が少ない。5月、淡黄色の小花が群がって開き、芳香がある。雌株では秋にダイズ粒ほどの実が暗紫色に熟して落ちる。繁殖はおもに挿木により、春には前年に出た枝を、夏にはその年に出た枝を用いる。そのほか株分けや実生(みしょう)もできる。日当りのよい場所でよく育つ。
葉を乾燥したものをベイリーフbay leafまたはローレルlaurelとよび、独特の香味があるので、スープやシチュー、肉料理に欠かせないスパイスとして利用されている。葉に含まれる成分は月桂油で、シネオール約50%、ほかにオイゲノール、ゲラニオール、ピネン、テルピネンなどが含まれる。葉はラウルス葉とよばれ、果実とともに芳香性健胃剤などの薬用にもされる。
ゲッケイジュの葉付きの枝で編んだ冠が月桂冠で、ギリシア時代からオリンピックの勝利者をたたえて贈ったことで有名であり、またギリシアやローマでは太陽神アポロや医療の神エスクラピウスに捧(ささ)げた。戦争や恋の勝利者の冠にも使われ、後世ではこの木が悪魔を防ぐと信じられた。日本へは1905年(明治38)にフランスから導入されたのが最初で、日露戦争の戦勝記念樹に採用されて有名になり、以降、代表的な記念樹用の樹種として普及した。
[星川清親 2018年8月21日]
文化史
ゲッケイジュは地中海地方原産であるが、その和名は中国の伝説による。仙人について仙術を学んでいた呉剛(ごごう)という男が、自分の犯した過ちの罰として、伐(き)っても伐ってもまた元に戻ってしまうという月の1本の桂(けい)の木に、いつまでも斧(おの)を当てているという伝説(『酉陽雑俎(ゆうようざっそ)』)があり、中国では昔、月面の暗い影を桂の木が生えているとみた。この伝説は古く日本にも伝わり、桂がカツラ科のカツラと思われていたが、江戸時代の本草(ほんぞう)学の発達とともに、桂はモクセイの類と正しく同定されるようになった。明治時代にゲッケイジュが導入された際、モクセイに姿が似るうえ、葉の香りが強いこともあわせて、中国の伝説の月桂樹があてられた。
[湯浅浩史 2018年8月21日]