ゲームをしたいという衝動を抑えられず、日常生活よりもゲームを優先し、健康を損なうなどの問題が起きても続けてしまう依存症。2022年から使われる世界保健機関(WHO)の「国際疾病分類」最新版で治療が必要な病気と認定された。家庭や学業、仕事に重大な支障が生じる状況が少なくとも1年以上続くなどした場合に診断される。有効な治療法は確立していない。
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ギャンブル障害(病的賭博(とばく))などと同じ、行動の依存症(嗜癖(しへき))の一つ。おもにオンラインを使用したビデオゲームに没入し、自らをコントロールできなくなる状態。そのために現実生活での役割、社会生活がこなせなくなり生活に支障をきたす。
レクリエーション、友人とのコミュニケーションなどを目的としてゲームを始めるが、しだいに現実世界とのバランスが逆転し、ゲームおよびゲーム関連行動が生活の主軸となる。そのため現実生活が破綻(はたん)し、社会的・職業的な機能が果たせなくなる。
アメリカ精神医学会が定める診断基準DSM-5(Diagnostic and statistical manual of mental disorders, fifth edition。2013年発表)に「今後の研究のための病態」としてインターネットゲーム障害が定義されたのが、診断基準としては初めてのケースである。その後、世界保健機構(WHO)の国際疾病分類ICD-11(International Classification of Diseases, 11th Revision)が2022年に発効され、そこにもゲーム障害Gaming Disorderが疾患概念として取り入れられた。正式な和名はまだ決定しておらず、ゲーム症、ゲーム行動症など複数の候補があがっている。
DSM-5、ICD-11はいずれも国際的に広く認知されている診断基準であり、信頼度は高い。しかしゲーム障害はまだ歴史の浅い疾患であり、診断概念についてはさまざまな論争がある。
[佐久間寛之 2023年7月19日]
一般に嗜癖・依存に共通の項目として渇望(その行動に対する強い欲求)、コントロール障害(始めるとやめられない、減らそうと思っても失敗する、やるまいと思っても始めてしまう)、優先順位の変化(その行動が他の生活事項より優先される)、問題が起きても続ける、などの症状がおき、そのために社会生活が破綻する、ないしは機能低下をおこす。
現在のゲーム障害が疑われる者の中心年齢は10代であるため、社会生活が破綻すると進級や進学、就職あるいは就労の維持が困難になる。そのために社会から逃避し、ゲームを中心とした生活となりやすい。単にゲームへののめり込みだけではなく、背景には発達障害要素、対人関係の問題、家庭の問題、自尊感情や自己効力感の低下など、複数の心理的・社会的要因があるため、ゲームをやめる・やめないといった二元論、あるいは単に診断を下すだけの対応では問題は解決しない。生活全般への支援、本人の孤立感や現実社会への忌避感を改善するような支援が望まれる。
[佐久間寛之 2023年7月19日]
中高生を対象に日本で行われた推計調査では、ゲーム障害が疑われる者は2012年(平成24)に52万人、2017年に93万人と推計された。ただし、この調査はスクリーニング調査であるため疑陽性率が高く、多めに見積もられているのではないか、使用されたスクリーニングがインターネットへの依存度を調べるツールであり、かならずしもゲームへの依存度とは一致しないのではないか、などの批判もある。
[佐久間寛之 2023年7月19日]
ゲームへの過度ののめり込みが主たる症状ではあるが、問題となるのは社会からの逃避であり、進級や進学など達成課題に到達できない点や、対人関係が構築できずに社会的孤立につながる点である。そのため治療や支援は本人への生活支援が重要となり、社会的孤立や孤独感をいかに解消するかが鍵(かぎ)である。単にゲームを問題視し、ゲームをやめることのみに焦点をあてた支援や治療はドロップアウト(治療からの脱落)を招く。現在のところ有効な薬物療法はなく、認知行動療法や動機づけ面接法などの有用性が確認されている。そういった手法を使いつつ、いかに本人を支え、さらなる社会的孤立を防ぐかが重要である。
[佐久間寛之 2023年7月19日]
(横田一輝 ICTディレクター/2018年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
(2018-1-9)
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