ことわざを知る辞典 「ことわざと比喩」の解説
ことわざと比喩
■ことわざは、フォークロアのなかでも地味なジャンルですが、実生活では、短いことばで状況を巧みにとらえ、鋭く批評し、重要な判断基準を示して大きな力を発揮します。特にコミュニケーションのなかでは、立場が違っていても相手の共感をえながら説得し、励ますことができます。ことわざの短いことばのどこから、そんな力が出てくるのでしょうか。
■たとえば、別れた男のことを悪しざまにいう女性に対しては「そんなに悪い奴じゃないよ」というより、「いろいろあったんだろうけど、坊主憎けりゃだね」と一言いうほうが効果的です。また、新プロジェクトの実施を前に思い悩む同僚には、取り越し苦労するなというだけでは説得力に欠けますが、「なに、やるだけやったんだから、案ずるより産むが易しだ」と声をかけると、反応が違ってくるでしょう。さらに、ついてないことが続いたときは、自ら「七転び八起き」を想起して気を取り直し、「思い立ったが吉日」と新たなことに取り組むことも、もちろんできるわけです。
■これらの例をあらためて見直すと、ことわざの威力の源は、主として比喩(たとえ)にあるのではないかという気がしてきます。行き詰まって停滞していた思考と感性が、ことわざの比喩によって刺激を受け、発想の転換をうながされるといってもよいでしょう。しかも、この比喩は、その場かぎりの下手なたとえ話ではなく、長年多くの人びとによって検証され、支持され続けたものだけに、説得力が感じられます。
■ちなみに「たとえに嘘なし坊主に毛なし」ということわざがありますが、この「たとえ」は古くから庶民の間で用いられてきた「ことわざ」の異称でした。
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