植民地で行われた建築や工芸の様式。ラテン・アメリカでは15世紀以来スペインが,また17~18世紀にはインドでイギリスが,母国の様式に各地の風土性や材料,技術を取りこんで,地方的特色ある様式を生み出した。一般にはアメリカの植民地時代(1620-1820)の建築についていわれるもので,適当な伝統がなかった新開地に移民たちが故国の建築様式を簡略化しながら展開した各種のスタイルを総称していう。
初期には,住宅,倉庫,教会,集会所など,木や煉瓦などの身近な材料を用いた実用的施設が建てられた。とくに豊富な木材を使用し,労力と道具の不足を補う必要から工程の簡略化と工法の経済化をはかった結果,枠組壁構法をはじめ,単純だがじょうぶな木造建築が発展をとげた。独立戦争を境に大規模で恒久的な建築が建つようになると,出身国の別そして定住地の自然的・技術的条件を反映した地方色が確立していく。大別するとスペイン系(フロリダと南西部),北部(ニューイングランド)と南部(後の南部諸州)のイギリス系,オランダ系(ニューヨーク周辺),およびフランス系(ミシシッピ川流域)に分かれる。北部を代表するイギリス系は,耐寒と強度を配慮して小さくまばらにあけた開口部,暖房用の大きな煙突,下見板張りにペイント仕上げの外壁を意匠上の特徴とする木造都市建築を大成した。煉瓦造りも順次普及し,さらにジョージアン様式が重用されて,18世紀後期からはアメリカの公共建築の大半に採用された。南部では,イギリス系が温暖な気候を利して大規模でオープンな平面をもつ大農園領主館に特色を出したのに対し,フランス系は高温多湿への対策から基礎を高く構え,窓を大きくあけ,日よけと戸外室を兼ねたベランダやポーチを設けた,南部の典型様式をつくった。これらは日本でも明治期に模倣されて,ベランダ付の木造建築を生んだ。
執筆者:黒川 直樹
ラテン・アメリカのバロック建築は17世紀後半から18世紀後半までのコロニアル文化最盛期の美術様式として登場するため,コロニアル・バロックと呼ばれることも多い。これは,スペインをはじめ西欧諸国の単なる模倣にとどまらず,土着民(インディヘナ)文化の伝統,イベリア半島経由のイスラム美術の伝統,幅広いカトリック世界の布教活動からもたらされる東洋美術からの影響などから形成された融合(フュージョン)美術である。
西欧バロック様式にくらべ反古典,反ルネサンスの意識は薄く,建築構造のダイナミズムや明暗効果,三次元効果の追求といった志向は穏やかなものだった。一方でリズム感や複雑な動感を生み出す表面性への執着,装飾志向,オロール・バクイ(隙間恐怖症)の性向が強い。スペイン人到来以前から使われていたセッコウ,テラコッタや,イスラム美術の影響によるタイル等を使って建物表面を装飾的に覆う独特な意匠から,ラテン・アメリカのコロニアル・バロックは別名〈表面バロック〉とか〈二次元バロック〉とも呼ばれる。教会堂は,構造的には翼廊(トランセプト)付のラテン十字形プランで交差部に円蓋を置くというオーソドックスなものが主流であるが,カマリンcamarínという礼拝室を祭壇の後ろに付け加えたり,翼廊の先にまたロサリオ礼拝堂を置くものも流行した。
さらにラテン・アメリカのバロック建築には地域差が顕著である。大都市部が西欧のバロック様式の直接影響下にあったのに対し,インディオ人口の多い地方のバロック建築には,土着的伝統的色彩が濃い。熱帯特有の動植物,土着宗教の象徴である月や太陽,星,伝説の人魚等が装飾モティーフに使われるが,これらの扱いもアンデス高地とメキシコとではまったく性格の異なる表現になっている。西欧の影響にしても,たとえばエクアドルのキトではローマ・バロック建築との関係が濃厚である一方,ペルーのリマではムデーハル様式のものが広く市民建築にまで浸透している。ブラジルでは東洋的柔和さをもつロココ的様式が初めから主流であった。
執筆者:加藤 薫
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[建築]
コロニアル期はそれぞれ出身地の建築様式が移植され,木造ないし石造の素朴な住宅,教会が作られた。独立期前後はイギリスのジョージアン様式を模倣した,いわゆるコロニアル・スタイルが生まれたが,19世紀初め渡米したランファンPierre Charles L’Enfant(1754‐1825),B.H.ラトローブなどによって国際様式がもたらされる。南北戦争前後にはハントRichard Morris Hunt(1828‐95)に代表されるギリシア様式とゴシック様式,ルネサンス様式の折衷が見られた。…
…ここでは住居もカヌーもすべてトトラtotoraと呼ばれる葦を編んでつくる。
[コロニアル・スタイル]
中南米の都市部ではコロニアル・スタイルが徹底している。コロニアル・スタイルの都市は道路がグリッド(格子)・プランで,その中心に矩形の広場がある。…
…ヒンディー語のbaraṇdāがポルトガル語のvaranda(baranda)となり,やがてveranda(h)として定着した。16世紀以後,東南アジアに進出したヨーロッパ人は,温湿な風土にあわせ独特の建築様式(コロニアル・スタイル)を作りあげたが,これは家屋の前面ないし四周にとりつけた高床の深いひさし(ベランダ)がその特徴となっていた。その後これがヨーロッパに逆輸入され,その異国趣味がもてはやされるが,その間にパラディオ主義に影響を与え,古典様式のポーチやロッジアと融合しあう。…
※「コロニアルスタイル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
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