人権擁護、思想の自由、民主主義の発展に功績をあげたヨーロッパ連合(EU)域外の人物・団体に与えられる賞。ソ連(当時)で迫害を受けながらも民主化や人権擁護を説き続けたロシア人物理学者アンドレイ・サハロフの功績を記念し、世界の人権擁護活動を支えるためヨーロッパ共同体(現、EU)のヨーロッパ議会が1988年に創設した。正式名称は「思想の自由のためのサハロフ賞Sakharov Prize for Freedom of Thought」。選考はヨーロッパ議会議長と政党グループ代表者で構成する選考会議が行い、故人や服役・抑留・軟禁中の人物も対象となる。受賞者は毎年秋に発表され、同年12月にフランスのストラスブールで開催されるヨーロッパ議会本会議で賞が授与される。副賞は5万ユーロ。初代受賞者は南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)撤廃に尽力し、のちに同国大統領となったネルソン・マンデラと、ソ連の人権活動家アナトリー・マルチェンコAnatoli Marchenko(1938―1986。没後に受賞)。歴代受賞者には、ミャンマーの人権活動家アウンサンスーチー(1990)、中東の民主化運動「アラブの春」の活動家たち(2011)、パキスタンの女性人権活動家マララ・ユスフザイ(2013)、ロシアのウクライナ侵攻に抗した大統領ゼレンスキーVolodymyr Zelenskyy(1978― )や市民社会に代表される勇敢なウクライナ国民(2022)らがおり、同賞の授与は人権、民主主義、法の支配を重視するヨーロッパ議会の姿勢を内外に示す手段となっている。この賞の受賞者にはノーベル平和賞受賞者も多い。受賞団体には、国際連合、「国境なき記者団」などがある。
サハロフはソ連の水素爆弾開発に貢献して「水爆の父」とよばれたが、核実験による放射能汚染の危険性に警鐘を鳴らし、民主化や人権擁護などを主張したため、反体制活動家として弾圧を受けた。強制移住させられながらも人権擁護活動を続け、ペレストロイカの推進などに貢献。1975年にはノーベル平和賞を受賞している。
[矢野 武 2023年3月17日]
(2013-11-22)
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