日本大百科全書(ニッポニカ) 「さび病」の意味・わかりやすい解説
さび病
さびびょう
rust
サビキン(さび病菌ともいう)の寄生によっておこる植物の病気の総称。サビキンはカビの仲間で担子菌類のサビキン目に属し、寄生する植物によって種が異なる。日本では56属約750種が知られており、ムギ類、マメ類、マツ、ナシなど多くの重要な農作物や林木に寄生して被害を与え、産業上の影響が大きい。
サビキンの寄生を受けた植物は葉や茎に胞子の塊(胞子層)を多数つくる。この胞子の塊が鉄さびによく似ているのでさび病とよばれる。サビキンは菌類のうちでもっとも進化した形態を有する。さび状の胞子層は無性的につくられる夏胞子または冬胞子の塊である。夏胞子は黄ないし橙(だいだい)色、あるいは赤褐色で、風で飛散して宿主の葉や茎に達し、発芽して気孔から宿主の体内に侵入、7~10日後にふたたび夏胞子を生じ蔓延(まんえん)する。冬胞子は病勢が進むと形成され、夏胞子より色が濃く褐色ないし黒褐色のものが多い。冬胞子は成熟、休眠ののち、発芽すると前菌糸と称する特殊の発芽管を形成し、ここで減数分裂して4個の小生子(しょうせいし)をつくる。小生子は植物に侵入して柄(へい)胞子を形成、柄胞子が互いに受精して有性的にさび胞子ができる。さび胞子は毛状、小椀(わん)状など独特の形をした胞子層に形成され、ときにマツこぶ病のように異常肥大をおこすことがある。さび胞子は橙黄(とうこう)色を呈し、宿主の気孔から侵入して夏胞子または冬胞子を生ずる。典型的なサビキンは、以上のように小生子―柄胞子、さび胞子、夏胞子、冬胞子の4種の胞子を有するが、種によってこのうちのあるものを欠くものも少なくない。
サビキンは、さび胞子時代と夏・冬胞子時代をまったく異なった植物上で過ごすものが多い。このような性質を異種寄生性、この現象を異種寄生または宿主交代と称する。この場合、経済上重要でない宿主を中間宿主という。たとえば、コムギ赤さび病では、コムギに夏胞子、冬胞子をつくり、アキカラマツでさび胞子時代を過ごすが、アキカラマツは中間宿主といわれる。ナシ赤星病では、柄胞子、さび胞子時代がナシに寄生し、冬胞子時代はビャクシン類に寄生する。
サビキンは冬胞子の性状から層生サビキン科と柄生サビキン科の2科に分けられる。層生サビキン科の冬胞子は無柄で、おもな属にはクロナルティウムCronartium(マツこぶ病菌)、メラムプソレラMelampsorella(モミてんぐ巣病菌)、コレオスポリウムColeosporium(マツ葉さび病菌)など、さび胞子時代が針葉樹に寄生して被害を与えるもののほか、メランプソラMelampsora(アマさび病菌)、ファコプソラPhakopsora(ダイズ、ブドウさび病菌など)が重要な属である。柄生サビキン科は冬胞子に柄があり、代表的なものではプッキニアPuccinia属がある。この属はムギ類、トウモロコシ、イネ科牧草類、ネギ、キクその他に寄生し、約340種が知られており、農作物の重要な病原菌となっている。とくにムギ類では、黄さび病、黒さび病、赤さび病、小さび病の4種のさび病がある。このほか、ウロミセスUromyces(ソラマメ、インゲン、カーネーションさび病菌など)、ギムノスポランギウムGymnosporangium(ナシ、リンゴ赤星病菌など)が重要である。
さび病の防除は、中間宿主を除き、さび病に強い品種(抵抗性品種)を栽培するなどの耕種的な方法のほか、発生時期に石灰硫黄(いおう)合剤、ジネブ剤、メプロニル剤(「バシタック水和剤」)、トリアジメホン剤(「バイレトン水和剤」)などを散布する。
[梶原敏宏]