日本大百科全書(ニッポニカ) 「サラクルー」の意味・わかりやすい解説
サラクルー
さらくるー
Armand Salacrou
(1899―1989)
フランスの劇作家。8月8日ルーアンに薬剤師の子として生まれる。パリで医学、哲学、法学を修め、シュルレアリスムとコミュニズムの洗礼を受け、ジャーナリストとして働きながら劇作に手を染め、まず前衛的な『パチューリ』が1930年にシャルル・デュランに取り上げられて劇界にデビューした。第二次世界大戦前には『アトラス・ホテル』(1931)、『自由な女』(1934)、『アラスの見知らぬ女』(1935)、これもデュランが上演して好評を得た傑作、ルネサンス期イタリアの教会改革者・狂信的独裁者の怪僧、サボナローラを主人公にした『地球は丸い』(1938)、それに喜劇『笑い話』(1939)など、さまざまなテーマと手法で、反写実のユニークな人間の条件のドラマを世に問うて気を吐いた。こうしてレジスタンスに材を得た『怒りの夜』(1946)や『ルノワール群島』(1947)を機として、戦後はいよいよ成熟した手つきで『神は知っていた』(1950)、『デュラン大通り』(1960)など、概して社会性の強い作品を発表、それを実存的な孤独感と融和させて健在を示したが、1960年代以降は第一線から遠のいた感が否めない。現代のフランス演劇界を代表する一人で、1949年来アカデミー・ゴンクール会員であった。
[渡辺 淳]
『鎌田博夫他訳『てすびす叢書第18 怒りの夜』(1953・未来社)』▽『鈴木力衛訳『神は知っていた』(『現代世界戯曲選集1 フランス編』所収・1953・白水社)』▽『岩瀬孝訳『地球は丸い』(『現代フランス戯曲選集 第1巻』所収・1960・白水社)』