サロメ(読み)さろめ(英語表記)Salomé ギリシア語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サロメ」の意味・わかりやすい解説

サロメ(オスカー・ワイルドの戯曲)
さろめ
Salomé

イギリスの作家オスカー・ワイルドが名優サラ・ベルナールのためにフランス語で書いた一幕劇。1893年パリで出版、英語版は友人アルフレッド・ダグラスAlfred Douglas(1870―1945)の訳にA・V・ビアズリーの有名な挿絵を添えて1894年に出版された。イギリスでの上演は禁止され、初演は1896年パリのテアトル・ド・ルーブル。リヒャルト・シュトラウスによるオペラの成功(1905)もあった。ユダヤ王妃エロディアスの娘サロメの美しい踊りに心奪われた継父エロド・アンティパスが、獄中ヨカナーンの首をサロメに与えたという『新約聖書』「マタイ伝」14章の物語。世紀末的幻想とワイルドの色彩豊かな文章によって世紀末を代表する戯曲となった。

[前川祐一]

『『サロメ』(佐々木直次郎訳・岩波文庫/西村孝次訳・新潮文庫/日夏耿之介訳・角川文庫)』


サロメ(新約聖書)
さろめ
Salomé ギリシア語
Salome 英語

『新約聖書』の登場人物。ガリラヤとペレアの領主(前4~後39)であった義父ヘロデ・アンティパスの誕生日の祝宴で舞い、その褒美として、母ヘロデヤにそそのかされて洗礼者ヨハネの首を所望した王女。サロメという名は福音書(ふくいんしょ)(「マタイ伝福音書」14章、「マルコ伝福音書」6章)にはなく、ヨセフスの『ユダヤ古代誌』Josephus, Flavius “Ioudaikē Archaiologia”17巻による。サロメは、洗礼者ヨハネの死にまつわるエピソードとして、とくに首を盆にのせるというショッキングな事件のために有名であり、オスカー・ワイルドの戯曲の悲劇性や、リヒャルト・シュトラウスの楽劇で演じられる「七つのベールの踊り」の官能美に目をひかれやすい。それとは別に、サロメを通して当時のユダヤの宮廷生活の近親婚に触れることができる。母ヘロデヤはヘロデ大王の孫娘で、叔父たちの政略結婚に翻弄(ほんろう)されたとも理解できる。

市川 裕]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サロメ」の意味・わかりやすい解説

サロメ
Salomé

イギリスの作家 O.ワイルドの戯曲。 1893年刊。フランス語で書かれ,作者の友人 A.ダグラスによって英訳 (1894) された。聖書の物語に材をとる。ユダヤの王妃エロディアスには,最初の結婚によってもうけた娘サロメがいる。サロメは王に捕えられている預言者ヨカナーンを恋しているが,ヨカナーンは彼女を拒む。サロメは王の求めに応じて踊り,褒美にヨカナーンの首を所望する。何でも望むものを与えると約束していた王は,やむなくサロメの願いを聞き届ける。サロメは首を持って踊り狂い,王の命令を受けた兵士たちに殺害される。耽美的な倒錯趣味と華麗な修辞によって有名。 96年パリで初演。イギリスでは,内容が冒涜的という理由で,1931年にいたるまで公演が禁止されていた。英語版のために A.ビアズリーが描いた挿絵は著名。のちに R.シュトラウスによってオペラ化 (1905) された。

サロメ
Salome

1世紀頃在世のユダヤ王,ヘロデ大王の孫娘,ガリラヤの分封王ヘロデ・アンティパスの後妻ヘロデアの娘。彼女は叔父と結婚したが,のち小アルメニアの王アリストブロスと再婚した。このサロメは,伝統的にヘロデアと最初の夫ピリポ (ヘロデ・アンティパスの異母兄弟) の娘とみられ,ヘロデ王に踊りの褒美としてバプテスマのヨハネの首を求めたとされている (マタイ福音書 14・1~12,マルコ福音書6・14~29) 。このサロメの物語は早くからキリスト教芸術の素材となっている。

サロメ
Salome

ユダヤの歴史に登場するゼベダイの妻,使徒ヤコブやヨハネの母。またおそらくはイエスの母マリアの姉妹 (ヨハネ福音書 19・25) 。1世紀頃在世。

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