ジョット(読み)じょっと(英語表記)Giotto di Bondone

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジョット」の意味・わかりやすい解説

ジョット
じょっと
Giotto di Bondone
(1266ころ―1337)

イタリアの画家、建築家。フィレンツェ派絵画の基礎を築き、イタリア絵画、ひいてはヨーロッパの近代絵画の創始者とたたえられる。フィレンツェ近郊の小村ベスピニャーノに生まれる。貧しい少年ジョットが、羊の番をしながら羊の絵を描いていると、通りかかったチマブーエがその才能に驚き、連れて帰って弟子とした、というギベルティの伝えるエピソードは有名である。この話の真偽はさておき、ジョットがチマブーエのもとで画業を学んだ可能性は大きいといえる。しかし、ジョットの作風形成には、ピエトロ・カバリーニなどの活躍で当時高い水準に達していたローマ派の影響も重要である。また、古代やフランス・ゴシック美術の影響を受けたアルノルフォ・ディ・カンビオやジョバンニ・ピサーノの彫刻からも刺激を受けたと思われる。つまり、ジョットはイタリアの中世美術の優れた成果を吸収し、イタロ・ビザンティンとよばれる当時の絵画に、空間性と写実性を吹き込んで一大変革を成し遂げ、その後のイタリア絵画、そしてヨーロッパ絵画を方向づけたといっても過言ではない。こうしたジョット絵画の背景となったのは、都市市民層の勃興(ぼっこう)、その市民たちの心をとらえた聖フランチェスコ以来の宗教運動、そしてフレスコ画技法の発展などをあげることができる。

 初期の活動には不明な点が多いが、この時代の作品としては、フィレンツェのサンタ・マリア・ノベッラ聖堂の『磔刑図(たっけいず)』とサン・ジョルジョ・アッラ・コスタ聖堂の『聖母子と天使』が、多くの学者に真筆と認められている。アッシジのサン・フランチェスコ聖堂上院の『旧約伝』の一部と『聖フランチェスコ伝壁画は、その帰属に関する議論がいまだ決着をみず、イタリア美術史上の難題の一つといえる。イタリア人を中心に多くの学者はジョットの作と主張するが、おもにイギリス、アメリカ人学者による強い反論があるからである。ともあれ、ジョットの最大の作品がパドバのアレーナ礼拝堂(スクロベーニ礼拝堂)の『マリア伝とキリスト伝』壁画(1303~05)であることは疑う余地がない。この小礼拝堂の壁画群は西洋美術史の一大金字塔で、生き生きと描かれた物語にみる人間性と宗教性の融和は、並はずれた造形感覚に支えられて、高い芸術的境地に達している。フィレンツェに残された作品としては、『栄光の聖母』(ウフィツィ美術館)、サンタ・クローチェ聖堂のバルディペルッツィの両礼拝堂の壁画が重要である。ジョットは広い名声を博し、大工房を営み、このほかにも各地の注文に応じていた。ローマ、リミニ、ナポリ、ミラノなどで、教皇や君主のために制作に携わったことが知られている。しかし残念ながら、今日残る遺品は少ない。さらに、1334年にはフィレンツェ大聖堂(サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂)の主任建築家に任ぜられ、鐘塔の建設にあたり、同地で没した。

[石鍋真澄]

『サレス・エイマール著『巨匠の世界 ジョット』(1970・西武タイム)』『佐々木英也解説『世界美術全集1 ジオット』(1978・集英社)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ジョット」の意味・わかりやすい解説

ジョット
Giotto di Bondone

[生]1266~67/1276. ベスピニャーノ
[没]1337.1.8. フィレンツェ
イタリアの画家。フィレンツェに近い山間地ムジェルロで羊飼いをしていた少年をジョバンニ・チマブーエが見つけて弟子にしたとジョルジョ・バザーリは伝えているが,初期の経歴は不明。アッシジサン・フランチェスコ聖堂にローマ派の画家や,チマブーエのあとをうけて制作した壁画『旧・新約聖書絵伝』中の 3面が 1290年代の真作と認められている。同じく『聖フランチェスコ伝』連作はバザーリ以来一般にジョット作として知られているが,賛否論争が絶えない。確実視されるジョット作品は,1305年に献堂されたパドバスクロベーニ礼拝堂内の『イエスと聖母の生涯』の連作フレスコ,ベルリン国立美術館(絵画館)所蔵の『聖母マリアの死』およびウフィツィ美術館所蔵の『オーニサンティの聖母』など。また,サンタ・クローチェ聖堂のバルディ家礼拝堂に描いた『聖フランチェスコ伝』の連作フレスコ,およびペルッツィ家礼拝堂に描いた『洗礼者および福音記者ヨハネの生涯』の連作フレスコは 1317年以後に制作されたもので,いわゆる「ジョッテスキ」の画境の進展が認められる。1334年にはサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂建築監督となっている。ジョットの設計になる美しいカンパニーレは特に有名である。

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