ドイツの解剖学者、細胞学者。ライン地方のノイスに生まれる。ボン、ウュルツブルク、ベルリンの各大学に学び、卒業後ベルリン大学のJ・P・ミュラーの助手となった。1839年ルーバン大学の解剖学教授となり、数年後リエージュ大学に移って、終生同大学の教授を務めた。ベルリン時代の若いころに、細胞学説の提唱、神経のシュワン鞘(しょう)の発見、筋肉の生理学的研究、胃液のペプシン作用の発見、アルコール発酵の研究などの貴重な仕事を成し遂げた。細胞学説で、動物体および植物体はともに単細胞、または細胞の複合よりなることを説き、それまでほとんどの研究者が厳然と区別した動物と植物を、同一の次元で観察した。
シュワンの『回顧談』(1878)によれば、ベルリンで植物学者M・J・シュライデンと昼食をともにしたとき、植物細胞の発達に対して細胞核のもつ意義をシュライデンから知らされたのがきっかけで、魚の脊索(せきさく)の細胞核を観察し、同じ原理が動物にも当てはまることを確認したのだという。1839年にこの説を『動植物の構造と生成の一致に関する顕微鏡的研究』Mikroskopische Untersuchungenにまとめている。
[古川 明]
ドイツの生理学者。ノイスに生まれ,ボン大学その他で医学を修めたのち,1834年ベルリン大学のJ.ミュラーの助手となる。以後5年間におこなった研究は多方面に及び,胃液中のペプシンの発見,神経繊維のシュワン鞘(しよう)の記載等があるが,最大の功績は細胞説を確立したことにある。すなわち,M.J.シュライデンの示唆を受け,脊索・軟骨その他広範な動物組織が細胞またはその変形物で成り立っていることを確認した(1838)。翌年刊行された《動物および植物の構造と成長の一致に関する顕微鏡的研究》は,彼の観察結果と細胞形成に関する見解を詳述したものである。ただし,無構造の芽質が結晶状に濃縮されて新しい細胞が形成されるという見解は誤りであった。また彼は,発酵や腐敗は生きている微生物に起因すると考えたが,発酵を非生物的現象と見るJ.F.vonリービヒの手厳しい批判を受けた。これは,内気な性格のシュワンには相当なショックであったらしく,彼が敬虔(けいけん)なカトリック教徒であったことも一因となって,新教徒の多いドイツでの学究生活を断念して39年以降はベルギーに移住し,その地の大学の教授として教育と信仰に明け暮れた。29歳以後のシュワンには,見るべき研究業績はない。
執筆者:檜木田 辰彦
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… 酵素はこのようにして,日常生活に不可欠な存在として人類と深いかかわりをもってきたのであるが,その存在と実体が認識されたのは,近々,わずか数百年前のことであった。
[酵素研究の歩み]
上述のように,発酵という微生物の細胞の働きを通して,その実体がなんであるかは不明のまま,人類は酵素を有効に利用してきたのであるが,酵素を生命体から抽出単離して利用することが可能であることを実証したのは,パヤンAnselme Payen(1795‐1871)とペルソJean François Persoz(1805‐68)による酵素ジアスターゼの発見・命名(1832)と,麦芽の無細胞抽出液によるデンプンの糖化の達成(1833),さらにT.シュワンによる胃液中の消化酵素の発見(1836)とペプシンの命名がこれに続くいくつかの先駆的業績のきっかけとなった。 酵素はこうして生命現象そのものと決して不可分ではないという認識がしだいに深まってきたが,有名なJ.F.リービヒとL.パスツールの生気論争,またE.ブフナーによる酵母の無細胞抽出液によるアルコール発酵の達成(1896)を頂点として,酵素分子が生体内の代謝を行うタンパク質性の触媒であることへの理解が深まっていったが,決定的な証拠はまだ得られなかった。…
…1838年《植物発生論》を発表,植物体の構成要素は細胞であり,細胞は独自の生命を有するという考え(細胞説)を明らかにした。彼の細胞説はT.シュワンによって完成されたが,両者とも細胞形成については誤った見解を示した。 主著《科学的植物学概要Grundzüge der wissenschaftlichen Botanik》(1843完成)は,細胞を基盤に置いた教科書であり,その後の植物学教科書の典型となった。…
※「シュワン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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