日本大百科全書(ニッポニカ) 「シルバニア鉱」の意味・わかりやすい解説
シルバニア鉱
しるばにあこう
sylvanite
金・銀のテルル化物。コストフ鉱kostovite(化学式CuAuTe4)の銀置換体にあたり、両者などでコストフ鉱‐シルバニア鉱群を形成する。構成員はすべて金・銀・銅の二テルル化物である。自形は庇面(ひめん)の発達した柱状、a軸あるいはb軸方向に扁平(へんぺい)な八角形あるいは菱形(ひしがた)の輪郭をもった板状などをなす。浅~深熱水性鉱脈型金・銀鉱床の鉱石鉱物として産する。日本では浅熱水性のものとしては北海道札幌(さっぽろ)市手稲(ていね)鉱山(閉山)から塊状の自然テルル中に包有されて産するものがあり、深熱水性のものとしては岩手県気仙(けせん)郡住田(すみた)町野尻(のじり)鉱山(閉山)から産するものが知られている。
共存鉱物は自然金、自然テルル、テルル鉛鉱、ヘッス鉱、ペッツ鉱、針銀鉱、黄鉄鉱、方鉛鉱、閃亜鉛鉱(せんあえんこう)、黄銅鉱、石英、蛍石(ほたるいし)、正長石などがある。同定は非常に低い硬度、一方向に完全な劈開(へきかい)、鋼灰色とも錫白(すずはく)色とも見える色調であるが、方向によって黄色味が見える。反射能が高いため、条痕(じょうこん)は一見黒く見えるが、よく見ると光沢があって白い。命名は原産地があるルーマニアのトランシルバニア地方にちなむという説と、テルルが新元素として確立される以前の別名シルバニウムsylvaniumによるという説とがある。
[加藤 昭 2017年5月19日]
シルバニア鉱(データノート)
しるばにあこうでーたのーと
シルバニア鉱
英名 sylvanite
化学式 AgAuTe4。Ag:Auは1:1を挟んで変化するため,(Au,Ag)Te2の式が用いられることもある
少量成分 Cu,Ni
結晶系 単斜
硬度 1.5~2
比重 8.16
色 鋼灰~錫白。自形結晶の場合,ある面は黄色味を帯びた色が出ることがある
光沢 金属
条痕 鋼灰~錫白
劈開 一方向に完全
(「劈開」の項目を参照)